県民健康調査検討委員会(注1)は、原発事故が起きた2011(平成23)年から甲状腺検査の結果を公表してきた。甲状腺検査は原発事故発生当時に18歳以下だった県内の子ども(約38万人)を対象に2011(平成23)年度に始まった。一次検査で甲状腺のしこりの大きさや形状などを調べ、程度の軽い方から「A1」「A2」「B」「C」とし、「B」、「C」と判定された子どもはさらに血液や細胞などを詳しく調べる二次検査の対象とされた。1986(昭和61)年のチェルノブイリ原発事故では、事故の4~5年後に子どもの甲状腺がんが急増したため、事故から3年目までの1巡目の結果を基礎データとして、2巡目以降でがん患者が増えるか否かを調べた。
1~4巡目の検査と25歳時の節目検査を合わせると、2020(令和2)年9月30日現在、福島県内で甲状腺がんと確定されたのは213人、がんの疑いは42人となった(表2)。
1巡目
(先行検査) |
2巡目
(本格検査1回目) |
3巡目
(本格検査2回目) |
4巡目
(本格検査3回目) |
25歳時の
節目の検査 |
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検査年度 | 2011-13 | 14-15 | 16-17 | 18-19 | 20-21 |
対象者数 | 約37万人 | 約38万人 | 約33万人 | 約29万人 | 約25万人 |
2次検査の対象 | 2,293 | 2,227 | 1,501 | 1,374 | 26 |
がんと確定 | 101 | 54 | 27 | 25 | 0 |
がんの疑い | 14 | 17 | 4 | 5 | 0 |
出典:『福島民報』2021年5月18日より引用 |
原発事故とがんの因果関係について、県民健康調査検討委員会の評価部会が2巡目の検査を終えた2015(平成27)年3月に、「原発事故の影響とは考えにくい」との中間報告をまとめた(『福島民報』2015年3月9日)。その理由として、外部被ばく線量が対象者の62.2%で1ミリシーベルト未満と少ないことやがんの発生率に大きな地域差が見られなかったことなどを挙げた。
郡山市と市教育委員会が2015(平成27)年9月から11月に測定した市内の小・中学生4,501人と、未就学児7,019人の個人積算線量の測定結果でも年間推計値は約9割が0.5ミリシーベルトを下回り、「健康に影響を与えるような数値ではない」(『福島民報』2015年12月31日)と報告している。しかし、県民の甲状腺がんに対する不安はぬぐい切れておらず、「県民健康調査」で甲状腺がんと診断された子どもの家族らが、2016(平成28)年3月12日に「311甲状腺がん家族の会」を設立した。会では、交流会や情報交換を進めるとともに、国や県、東京電力によるがんの原因究明や診療体制の充実を求めた。
3巡目、4巡目の甲状腺検査の結果についても、県民健康調査検討委員会は事故との関連を否定した。さらに、国連放射線影響科学委員会に於いても「放射線に関連した将来的な健康影響が認められる可能性は低い」(『福島民報』2021年3月10日)と指摘し、甲状腺がんについても被ばくが原因ではないとの見解を示した。
(注1 県民健康調査検討委員会は、福島第一原子力発電所事故による放射性物質の拡散や避難等を踏まえ、県民の被ばく線量の評価、健康状態を把握し、疾病の予防、早期発見につなげ、将来にわたる健康の維持、増進を図るために福島県が設置した。委員には広島大学原爆放射線医科学研究所教授など放射線の影響を研究する教授や医師等で構成されている。)