(3) 防災体制の強化

a 流域治水への転換

 近年、国内では計画規模を上回る災害の発生が顕著となっている。(内閣府『内閣府ホームページ』「内閣府の政策/防災情報のページ/災害情報/最近の主な自然災害について(阪神・淡路大震災以降)」<https://www.bousai.go.jp/updates/shizensaigai/shizensaigai.html>等)

 2011(平成23)年の新潟・福島豪雨により只見川の越水・決壊による流域の浸水や只見線の被災のほか、2014(平成26)年8月台風11号・台風12号による広島豪雨の土石流災害、2017(平成29)年7月九州北部豪雨では朝倉市付近で3時間に約400mm、12時間で約900mmの降雨があり、死者39名、行方不明者4名、負傷者35名に及ぶ災害が生じた。また、2019(令和元)年には台風15号の最大瞬間風速57.5mの暴風による千葉市のゴルフ場ネットの倒壊による災害が生じた。さらに同年、令和元年東日本台風により、阿武隈川、北上川の大雨、暴風、高波、高潮による甚大な被害、2020(令和2)年7月には九州で記録的な大雨による球磨川など大河川での氾濫が相次いだ。

 このような中、国は、2015(平成27)年に新たなステージに対応した防災・減災のあり方を提案し、想定しうる最大規模の洪水ハザードマップ策定を全国の自治体に義務付けた。2016(平成28)年には「施設では守りきれない大洪水は必ず発生する」とした水防災意識社会の再構築ビジョンを提唱し、社会(行政・住民)全体で防災意識を高め災害に備えるとした。国土強靭化対策(2018(平成30)年-2020(令和2)年)として総額7兆円に及ぶ「水防災意識社会」の再構築に向けた関係機関の連携強化を打ち出し、危機管理型水位計、川の水情報サイト、堤防やダム、排水施設の整備、機能強化等の事前防災対策事業(合流点改善、河道内樹木、土砂除却)を実施した。2019(令和元)年、国の水災害対策小委員会は気候変動による災害リスクの増大に対して、堤防等の災害防御施設の整備(ハード施設による防御)だけでは限界があり、ソフト対策を含めて、流域全体で備える水災害対策「流域治水の概念」を公表した。

 2019(令和元)年12月には令和元年東日本台風の災害を受けて、阿武隈川緊急治水プロジェクト及び福島県緊急水害対策プロジェクト(2019(令和元)年から2024(令和6)年)が進行している。(福島河川国道事務所『阿武隈川緊急治水プロジェクト』「河川」)、(福島県『福島県緊急水災害対策プロジェクト』「河川計画課」)

 阿武隈川の緊急治水プロジェクトにおいて、阿武隈川本川からの溢水による徳定地区の浸水被害をもたらした御代田地区の築堤事業は、2000(令和2)年度に完成した。さらに、阿武隈川本川の河道掘削と樹木伐採を進めており、計画220万立方メートルの内、支川笹原川合流点付近、日和田町、阿久津町の工事は完了し、横塚・安原地区、古川・道場地区、田村町金屋、安原町南河原が施工中である。その他、西田町鬼生田、日和田町八丁目において堤防強化を施工中である。

 福島県緊急水害対策プロジェクトでは逢瀬川河川改修事業が実施されており、2021(令和3)年度に大窪橋りょう工と道路改良工が完成しており、護岸工1,870m、築堤工1,390m、橋りょう下部工2基が施工中である。破堤した谷田川においては、堤防復旧を終え、田村町下行合地内、田村町上行合地内における河道掘削が進行中である。

 2021(令和3)年3月に国土交通省東北地方整備局福島河川国道事務所では激甚化・頻発化する豪雨災害に対し、流域を俯瞰し、あらゆる関係者(国・県・市町村等)が協働して取り組む治水対策「流域治水」を推進するため、「阿武隈川水系流域治水プロジェクト」を策定した。(「福島河川国道事務所/流域治水プロジェクト」)


b 郡山市の防災・減災対策及び各種ハザードマップの整備

 郡山市における主な防災・減災対策及びハザードマップ整備と主な災害との時間的経緯を表3に示す。

表3 郡山市の主な防災・減災対策
項目
2014(平成26) 9 「郡山市ゲリラ豪雨対策9年プラン」を国の「100mm/h安心プラン」へ登録
2015(平成27) 3 災害時の市業務継続計画(BCP)策定
5 「3次元浸水ハザードマップ」市ウェブサイトへ公開
7 防災危機管理課内に「災害対策室」設置
2016(平成28) 3 わが家の防災ハンドブック作成・配布
9 郡山市版安達太良山火山ハザードマップ作成
12 地域防災計画改訂(資料編改定:避難施設、警報発表基準等変更)
2017(平成29) 2 わが家の防災ハンドブック(多言語版)作成・配布
2018(平成30) 2 セーフコミュニティ国際認証(県内初取得)
4 農地課に「ため池除染推進係」設置
8 ため池ハザードマップ(防災重点ため池:市内34箇所)公開
2019(令和元) 5 防災情報伝達システム公開
7 「SDGS未来都市」、「自治体SDGSモデル事業」選定
10 令和元年東日本台風災害対応
2020(令和2) 4 洪水浸水想定区域改訂(阿武隈川、逢瀬川の想定区域反映)
7 国土交通省「防災コンパクト先行モデル都市」選定
7 島二丁目建物爆発事故対応
9 地域防災計画改訂(令和元年東日本台風を踏まえた対応等の追記)
2021(令和3) 2 福島県沖地震対応(郡山市・郡山市湖南:震度6弱)
3 地域防災計画改訂版配布(資料編:避難所の見直し等)
5 わが家の防災ハンドブック(改訂版)配布
5 災害対策基本法改正による避難情報の更新
12 液状化ハザードマップ公開(過去の液状化被害、液状化被害の可能性マップ)
12 郡山市土砂災害ハザードマップ改訂・公開
12 郡山市ため池ハザードマップ公開(118箇所)
12 安達太良山火山ハザードマップ公開(火山防災マップ)
(郡山市『郡山市ホームページ』「郡山市防災・減災対策(2013~)」「防災危機管理課/これまでの防災・減災対策」)

 2014(平成26)年9月には、「郡山市ゲリラ豪雨対策9年プラン」を国の「100mm/h安心プラン」へ登録した。郡山の市街地は2013(平成25)年以前の27年間に15回の浸水被害があり、今後、時間降水量50mm以上が増加することをふまえて、計画は時間降水量58mmまでを雨水貯留施設等の整備で対応し、時間降水量74mmまでの降雨を住民による止水版や土嚢の設置により、機能保全水深にとどめ、被害の最小化を図るものとした。2021(令和3)年度までに、麓山調整池、赤木貯留管、図景貯留管が竣工しており、本事業は2023(令和5)年度をもって完了となる。2015(平成27)年3月には、災害時の市の業務継続計画(BCP)を策定し、5月には、浸水過程が動画で確認できる「3次元ハザードマップ」を公開した。7月には、防災危機管理課内に「災害対策室」を設置した。2016(平成28)年3月には、わが家の防災ハンドブックを作成・配布し、9月には、郡山市版の安達太良山火山ハザードマップを作成している。2017(平成29)年2月は、わが家の防災ハンドブック(多言語版)を作成・配布している。2018(平成30)年2月には、県内初のセーフコミュニティ国際認証を取得し、8月には、重点防災ため池(34箇所)のハザードマップを公開した。2019(令和元)年には、防災情報伝達システムが完成し、同年10月の東日本台風では本システムの第1報が発信された。

 2020(令和2)年4月版の洪水浸水想定区域(阿武隈川、逢瀬川)を公表した。7月には、国土交通省の防災コンパクト先行モデル都市に選定された。9月には、令和元年東日本台風を踏まえた対応等を掲載した地域防災計画を追加変更した。

 2021(令和3)年2月福島県沖地震により、郡山市・郡山市湖南町では震度6弱による地震災害となった。3月には、地域防災計画の資料編避難所等の改訂を行い、5月には、わが家の防災ハンドブックの改訂版を作成・配布している。12月には、液状化ハザードマップに過去の液状化被害、液状化被害の可能性マップを追加し、郡山市土砂災害ハザードマップ、郡山市ため池ハザードマップ(118ヵ所)、安達太良山火山ハザードマップ(火山防災マップ)をウェブサイトに公開している。

 近年の災害の増加と激甚化を受けて、郡山市と企業や学校等の法人及び行政間の災害協定の締結が増加している。年度毎の協定締結数と累計を表4に示す。協定の内容は国、県においては災害時の情報交換、銀行関係は地域の暮らしと復興に関するもの、災害対応業務の支援、災害時の物資輸送、帰宅困難者の一時受け入れ、駐車場の提供などと多岐にわたる。(行政評価「事務事業マネジメントシート」、郡山市総務部行政マネジメント課)

表4 防災協定締結数の推移
年度 団体数
単年 累計
2012(平成24) 4 -
2013(平成25) 5 -
2014(平成26) 5 71
2015(平成27) 8 79
2016(平成28) 26 105
2017(平成29) 15 120
2018(平成30) 3 123
2019(令和元) 1 124
2020(令和2) 10 134
2021(令和3) 10 144

 

 防災活動の推進においては、郡山市総合防災訓練を会場を変えて毎年開催し、さらに、市民防災と自主防災組織リーダー講習会を毎年開催している。災害時の迅速な対応を促すための、在住外国人に対する「防災ワークショップ」も2014(平成26)年、2017(平成29)年と数年おきに開催している。

 市民防災講座「きらめき出前講座」は、災害から身を守る講座と防災マップ作成講座からなり、小学校児童から一般社会人まで幅広い年代層からの申し込みがある。年度の推移を表5に示す。2019(平成30)年以降は両者を合わせて25回以上の開催で、1,500人以上の参加者がある。また、2017(平成29)年からは防災マップ作成の参加者が増加しており、1回あたり20名以上の参加者があった。

 地域防災を担う自主防災組織は地区防災訓練、防災パトロール、郡山市総合防災訓練への参加、防災関係研修会及び後援会等への参加、防災資機材の購入、総会等会議の開催を主な活動としており、2012(平成24)年から2016(平成28)年までは41団体であったが、現在では1団体増加し42団体となっている。

表5 市民防災講座「きらめき出前講座」
年度 災害から

身を守る

防災マップ

作成

合計
人数
回数 人数 回数 人数
2013(平成25)年 12 220 0 0 220
2014(平成26)年 14 479 0 0 479
2015(平成27)年 14 397 0 0 397
2016(平成28)年 14 426 0 0 426
2017(平成29)年 17 886 4 87 973
2018(平成30)年 23 1,173 4 108 1,281
2019(令和元)年 37 2,280 2 65 2,345
2020(令和2)年 17 628 0 0 628
2021(令和3)年 27 1,421 2 67 1,488
2022(令和4)年 28 1,558 1 12 1,570

 

 防災士養成講座の参加者数の推移を表6に示す。2017(平成29)年までは自主防災組織に1年以上所属しているか、これから所属する方又は県から推薦された自治体職員を対象とした講座であったが、2020(令和2)年からは市主催で、市内在住の方を対象にしており、参加者数も増加している。

表6 防災士養成講座
年度 事業主体 受講人数
2012(平成24)年度
2013(平成25)年度 福島県 8名
2014(平成26)年度 福島県 11名
2015(平成27)年度 福島県 4名
2016(平成28)年度 福島県 3名
2017(平成29)年度 福島県 3名
2018(平成30)年度
2019(令和元)年度
2020(令和2)年度 郡山市 47名
2021(令和3)年度 郡山市 47名
2022(令和4)年度 郡山市 48名