もう一つの公共交通機関であるバスの利用者数の推移を『資料編』(第4編・12-2)に示した。これによると乗車人員総数は減少傾向が続いており、2018(平成30)年には、2012年(平成24)と比較して約100万人減少している。さらに2019(令和元)年から2021(令和3)年にかけては新型コロナウイルスの影響により、大幅に減少している。これに対して、営業キロ程および路線数は2018(平成30)年まで増加傾向にあるが、その後乗車人員の減少などに伴う路線バスの一部廃止により減少し、2021(令和3)年には大幅に減少している。路線バスが廃止される地域においては、自動車を運転できない人あるいは高齢者のための交通手段をどのようにして確保するかが重要な課題となってくる。
そこで郡山市は、路線バスが廃止された郊外部の一部地域において、路線バスに代わる新たな交通手段として、デマンド型乗合タクシーを導入することにした。デマンド型乗合タクシーとは、需要(デマンド)があるところにタクシーが向かい、利用者を乗せて目的地に移動する交通システムである。このために、利用者は指定の電話番号に事前に予約を行い(デマンド)、乗車後は1人1回500円を支払う。差額は郡山市が補填することになり、通常のタクシー料金より安くなる。
デマンド型乗合タクシーは2019(令和元)年6月から日和田地区、熱海地区で運行を始め、2020(令和2)年10月に西田地区と田村地区2エリア、2021(令和3)年4月には安積地区、三穂田地区、逢瀬地区、喜久田地区で運行開始して運行区域を拡大していった。
なお、その後の状況を参考までに記すこととする。2022(令和4)年4月からは片平地区、中田地区で運行を開始し、計10地区11エリアでデマンド型乗合タクシー運行を開始した。そして2023(令和5)年4月からは運行エリアを見直し、10地区10エリアで実施している。図6(郡山市提供)に2023(令和5)年4月1日時点のデマンド型乗合タクシー運行図を示す。
デマンド型乗合タクシーの利用者数は、運行区域の拡大に伴い増加し、2021(令和3)年には7,621人(1日あたり20.8名)となっている。利用者層としては高齢者や障害者の方が多く利用している。
デマンド型乗合タクシー運行に対する費用負担については、利用者が1回乗車するたびに500円(障害者、高校生以下は250円)負担し、通常料金との差額を郡山市が補填しているが、路線バスに対する補助金額とデマンド型乗合タクシー運行額を合わせた負担額は、減少している(郡山市(2023年)『郡山市総合都市交通マスタープラン』)。
公共交通利便性向上のための施策として、福島交通は2020(令和2 )年12月16日から福島交通バスロケーションシステムの導入を始めた。バスロケーションシステムとは、バスの位置(ロケーション)情報を利用者のパソコン、スマートフォンなどの端末に提供し、利用者はその情報をもとにバス停に向かい、あまり待たなくてもバスに乗れるシステムである。このシステムは国内外の多くの都市において導入されている。写真9にスマートフォンに実際に提供されたバスの位置情報の表示例を示す。これによると指定のバス停留所の到着時刻と、地図上で現在のバスの位置を見ることができる。
バスロケーションシステムについては、『郡山市史 続編4』で紹介したように、郡山市においても2005(平成17)年10月開催の郡山都心交通マネジメント検討会において、バスメールサービスの社会実験を2006(平成18)年1月から開始したいとの提案が出され、コスモス循環線で実験を行うこととした。バスメールサービスの特徴は、通常のバスロケーションシステムはバスの位置情報を利用者が取りに行かなければ得られないのに対して、乗りたいバスを事前に登録しておけば、そのバスの位置情報をメールで知らせてくれる点にあり、簡単に位置情報を得ることができる。
実験の結果、11月末で登録者は1,000人を超え、乗用車からバス利用の回数が増えるなど、バスの利便性向上を確認し、社会実験は終了した。本格運用されることはなかったが、今回バスロケーションシステムが郡山市において導入されたことは、バスの利便性向上に大いに貢献する。