1 住生活基本計画における変遷と郡山市での制定

 日本の住宅政策は21世紀に入り、急速に進展する少子高齢化、かつ人口・世帯減少社会の到来を踏まえ、現在と将来における豊かな住生活を実現するため、2006(平成18)年6月に「住生活基本法」が制定され、住宅の量確保からストックの質向上へと住宅政策の制度的枠組みが転換された。この法律に基づいて2006(平成18)年9月に国によって策定された「住生活基本計画(全国計画)」では、基本理念や基本的施策を具体化し推進するための成果目標として、(1)良質な住宅ストックの形成及び将来世代への承継、(2)良好な居住環境の形成、(3)多様な居住ニーズが適切に実現される住宅市場の環境整備、(4)住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保、の四つが基本的施策として掲げられた。その後、2011(平成21)年3 月には、長期優良住宅の普及の促進やリフォームの促進が、社会経済情勢の急激な変化に対応した計画の緊急的かつ重点的な推進に係る対策として新たに追加された(国土交通省『住生活基本計画(全国計画)』<https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000032.html>、「平成18年9月19日」<https://www.mlit.go.jp/common/001123473.pdf>、「平成21年3月13日」<https://www.mlit.go.jp/common/001123472.pdf>参照2024年11月18日)。

 2013(平成23)年に制定された「住生活基本計画(全国計画)」では、『ハード・ソフト両面の施策による安全・安心で豊かな住生活を支える生活環境の構築、住宅の適正な管理・再生、多様な居住ニーズに応える新築・既存住宅双方の住宅市場の整備、更には市場において自力では適切な住宅を確保することが困難な者に対して居住の安定を確保する住宅セーフティネットの構築のための施策の充実を図っていくことが必要である』と掲げられ、(1)安全・安心で豊かな住生活を支える生活環境の構築、(2)住宅の適正な管理及び再生、(3)多様な居住ニーズが適切に実現される住宅市場の環境整備、(4)住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保、の四つが基本的施策として掲げられた。また、(1)生活環境の構築に関しては、低炭素社会に向けた住まいと住まい方の提案や移動・利用の円滑化と美しい街並み・景観の形成の視点も新たに追加された(国土交通省『住生活基本計画(全国計画)』「平成23年3月15日」<https://www.mlit.go.jp/common/001123471.pdf>参照2024年11月18日)。

 日本の総人口が2010(平成22)年の1億 2,806 万人をピークに減少局面となり、高齢者の割合は、2013(平成25)年には25%を超え、世界に例のない高齢社会がすでに到来したことを受け、2016(平成28)年に制定された「住生活基本計画(全国計画)」では、その方針について、課題をより明確化させ、1.「居住者からの視点」2.「住宅ストックからの視点」3.「産業・地域からの視点」の三つの視点から八つの目標を掲げる内容へと変更された。具体的な目標内容は次のとおりである。

 1. 居住者からの視点として、(1)結婚・出産を希望する若年世帯・子育て世帯が安心して暮らせる住生活の実現、(2)高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現、(3)住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保、2.住宅ストックからの視点として、(4)住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築、(5)建替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新、(6)急増する空き家の活用・除却の推進、3.産業・地域からの視点として、(7)強い経済の実現に貢献する住生活産業の成長、(8)住宅地の魅力の維持・向上である(国土交通省『住生活基本計画(全国計画)』「平成28年3月18日」<https://www.mlit.go.jp/common/001392041.pdf>参照2024年11月18日)。

 2021(令和3)年に制定された「住生活基本計画(全国計画)」では、気候変動の影響と考えられる自然災害の頻繁・激甚化への対応とともに、2015(平成27)年12月に国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で合意されたパリ協定を踏まえた脱炭素社会の実現を目指し、かつ新型コロナウイルス感染症の感染拡大、いわゆる「コロナ禍」を契機とした生活様式や働き方の変化によるライフスタイルの多様化への対応、そして急激な技術革新によるDX化等、社会環境の大きな変化や人々の価値観の多様化に対応すべき豊かな住生活の実現が求められ、次のとおり、三つの視点と八つの目標は大きく見直された。1.社会環境の変化からの視点として、(1)「新たな日常」やDXの進展等に対応した新しい住まい方の実現、(2)頻発・激甚化する災害新ステージにおける安全な住宅・住宅地の形成と被災者の住まいの確保、2.居住者・コミュニティからの視点として、(3)子どもを産み育てやすい住まいの実現、(4)多様な世代が支え合い、高齢者等が健康で安心して暮らせるコミュニティの形成とまちづくり、(5)住宅確保要配慮者が安心して暮らせるセーフティネット機能の整備、3.住宅ストック・産業からの視点として、(6)脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成、(7)空き家の状況に応じた適切な管理・除却・利活用の一体的推進、(8)居住者の利便性や豊かさを向上させる住生活産業の発展、以上の基本的施策が掲げられた(国土交通省『住生活基本計画(全国計画)』「令和3年3月19日」<https://www.mlit.go.jp/common/001392030.pdf>参照2024年11月18日)。

 福島県においては、東日本大震災による大規模な地震・津波被害と原子力災害による複合災害に見舞われ、住生活を取り巻く環境が他県とは異なる特殊事情が生じたことを踏まえ、被災状況を反映し見直された「福島県住生活基本計画」が2013(平成25)年12月に制定された。「福島県総合計画」「福島県復興計画」及び県総合計画の土木分野に関する個別的計画「ふくしまの未来を拓く県土つくりプラン」を具現化する個別計画として位置付けられ、基本目標「はじめよう、ともに創る、誇れるふくしまの住まいとコミュニティ」の実現に向け、1.住宅の復興と再建、2.継続的な取組、3.新たな課題に対する取組の三つの方針を掲げた(福島県『福島県住生活基本計画』<https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/41065a/juuseikatukihon.html>、「平成25年12月」<https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/190702.pdf>参照2024年11月18日)。

 2016(平成28)年には、国の動きに合わせて計画の見直しが行われ、避難指示区域の見直しの動向も踏まえ、基本目標「夢・希望・笑顔に満ちた、誇れるふくしまの住まいとコミュニティ」の実現に向け、1.住宅の復興と再生、2.基幹的取組の方針を掲げ、(1)被害者の恒久的な住まいの確保、(2)地震などの災害に強い居住環境の形成、(3)地域資源を生かしたふくしま型の住まいづくり、(4)子育てしやすい居住環境の形成、(5)高齢者が自立して暮らすことができる居住環境の形成、とする五つの重点項目を掲げた(福島県『福島県住生活基本計画』「平成28年11月」<https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/500112.pdf>参照2024年11月18日)。

 2022(令和4)年3月には、東日本大震災以降の急激な人口減少や少子高齢化など福島県特有の課題、新型コロナウイルス感染症による新しい生活様式への対応など、住まいを取り巻く社会情勢の変化に対応しつつ、地方創生、2019(令和元)年に発生した令和元年東日本台風や2021(令和3)年2月13日に発生した福島県沖地震からの復旧、そして避難指示解除区域における帰還者向けの住宅確保など次のステージへの復興を進めていくため、計画を見直した。基本目標「居住ニーズの多様化や社会情勢の変化に柔軟に応える良質な住宅ストックの形成と活用」の実現に向け、(方針1)住宅ストックの質と量の適正化、(方針2)安全・安心、(方針3)地方創生・復興、(共通方針)地域居住の推進、の基本方針を掲げた(福島県『福島県住生活基本計画』「令和4年3月」<https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/525987.pdf>参照2024年11月18日)。

 以上のような国及び福島県における住生活基本計画の制定および見直しを受け、郡山市では「郡山市住生活基本計画」が2018(平成30)年3月に制定された。「郡山市まちづくり基本指針」を上位計画とし、前述のとおり住生活基本法に基づき国・県が策定した住生活基本計画を踏まえるとともに、郡山市都市計画マスタープラン等の市の関連計画等との整合を図り、住宅政策を展開する計画として位置付けられた。基本理念「豊かで快適な住生活を営むことができる、魅力あるまちの実現」の実現に向け、「人」に関する課題には(1)子育て世帯、高齢者等が安心して暮らせる住まいの実現、(2)住まいの安定的な確保、「住宅」に関する課題には(3)良質な住まいづくりの実現、(4)空家等の適切な管理・利活用の推進、「環境」に関する課題には(5)良好な居住環境の実現、の五つの基本的目標を定めた。それぞれのライフステージに応じ、住宅選択が多様となるまちに向けて住宅政策の推進を目指している(郡山市『郡山市住生活基本計画(平成30年3月))<https://www.city.koriyama.lg.jp/soshiki/128/5331.html>参照2024年11月18日)。