1 東北地方太平洋沖地震

 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)により郡山市においても、きわめて多くの建物が被害を受けた。本節では市有建物におけるその後の復旧状況について述べた後、2020(令和3)年福島県沖の地震などのその後の災害についても述べるものとする。

 東北地方太平洋沖地震に対する災害対策本部会議は、3月11日から3月31日までで77回、2011年度で51回、2012年度は2回開催され、場所も市役所本庁舎が被害を受けたため、当初は改修が行われたばかりの開成山野球場会議室で行われ、その後ミューカルがくと館(音楽・文化交流館)に移された。(本節全般にわたり文中の数値、名称等のデータは特記ない限り2010(平成22)年から2021(令和3)年の郡山市事務報告書による。)


 り災証明書の発行状況に基づく建物被害状況を表1に示す。半壊以上と判定された建物が25,000棟以上にも達しているほか、総発行件数も68,099件となっている。このことからも市民の財産の棄損が大きかったことがうかがえる。

表1 り災証明書発行件数(棟)
2021(令和3)年3月22日現在
区分 全壊 半壊 一部損壊
住宅被害 2,438 21,368 34,111
非住宅被害 327 1,103 4,751
合計 2,765 22,471 38,862
(郡山市( 2021 )『郡山市まちの記憶・市民の記憶』・郡山市事務報告書より筆者が集計)

 表2に市からの補助により解体された建物の件数を示す。全壊など大きな被害を受けた建物を再建するため、大きな費用が発生する解体を自治体が行うことで、再建の負担軽減に大きく寄与した。

表2 損壊家屋解体・撤去業務件数(件)
年度 2011 2012 2013
件数 1,165 1,527 726 3,418
(郡山市事務報告書より筆者が集計)

 郡山市公共施設は地震直後より建物・設備の被害及び安全確認のため、その多くが休館となった。これら休館となった施設も2ヵ月後の5月にはほとんどが再開している。大きな被害を受けるなどして2012(平成24)年以降も休館となった施設を表3に示す。最も影響が大きかったのは市役所本庁舎及び中央公民館・勤労青少年ホームであり、市役所本庁舎の閉鎖は行政機能が分散して被災者対応や復興に向けての業務執行が困難をきわめた。また、中央公民館は被害の大きさから改修を断念し、解体新築することとなった。

 郡山地域職業訓練センターは、表に挙げた部屋以外4月16日以降に再開したが、郡山商工会議所会館の被害が大きく使用不能となったため、会議室等を商工会議所へ貸し出した。その後、新会館が同じ敷地に新築され、2014(平成26)年12月1日にグランドオープンとなった。(郡山商工会議所『郡山商工会議所ホームページ』<https://www.ko-cci.or.jp/about/history/>参照2024年1月20日)

 以降は主だった施設の休館・復旧状況について述べる。


表3 公共施設の休館状況
(郡山市事務報告書より筆者が作成)

【郡山市役所本庁舎】

 展望室が倒壊したほかにも、大きな被害を受けて使用不能となった本庁舎を補完するために分庁舎災害復旧事業として、鉄骨造2階建ての北1号棟、北2号棟、南棟の3棟が新築された。また、これに加えプレファブ事務所や他施設に分散して執務が続けられた。

 2011(平成23)年から開始された本庁舎改修事業は、外壁面に制震ブレースを設置するなどして耐震性能を高めたもので、2013(平成25)年3月15日竣工後の4月1日から本庁舎での業務が再開された。

 執務に大きな影響はなかったものの、その他の行政施設として分庁舎も内外壁の改修が行われ、行政センター災害復旧事業として、安積、日和田、富久山、熱海、田村の各行政センターも壁や設備関係の改修が行われた(郡山市(2021)『郡山市まちの記憶・市民の記憶』)。


【市立小中学校】

 被災直後から小学校61校、中学校28校の全89校に対して、点検・補修を実施した。

 その後、特に被害の大きかった11校(小学校8校、中学校3校)については、緊急災害工事として鉄筋コンクリート造校舎に対して応急的な柱の補強、仮設材による落階の防止など、鉄骨造体育館に対してブレース部材の設置、接合部の溶接による補強など、これ以上被害を拡大させないための措置が行われた。図1に緊急災害工事の一例を示す。さらに、2012(平成24)年中までに公立学校施設災害復旧事業として、小学校24校、中学校14校の大がかりな復旧工事が行われ、小規模なものも含めると90件に上った。また、2018(平成30)年3月には橘小、行健中などの耐震化工事が終了し、これによって郡山市立小中学校の校舎・屋内運動場の耐震化率は100%を達成した。


図1 緊急災害工事例

 その他の学校施設として大きな被害を受けたのは安積黎明高校と帝京安積高校が挙げられる。両校とも被害が甚大であったため建替新築となり、安積黎明高校が2014(平成26)年2月に竣工(福島県県中建設事務所報道発表資料2014年2月24日)、帝京安積高校は2013(平成25)年に竣工した(帝京安積高等学校『帝京安積高等学校ホームページ』<https://www.teikyoasaka.ed.jp/about/outline/>参照2024年1月30日)。


【金透小学校】

 金透小学校は耐震補強1期工事終了後に被災し、補強済み校舎は被害がなく、

 未補強部分が大きく損傷して、図らずも耐震補強の有効性を明らかにすることとなった。図2に耐震補強により無被害であった校舎を示す。その後は、災害復旧工事として2012(平成24)年から2014(平成26)年までにかけて校舎および体育館の改築を含む、大規模な工事が行われた。


図2 無被害の補強済校舎


【市営住宅】

 市営住宅では、希望ヶ丘市営住宅で外壁の亀裂、渡り廊下に段差が生じるなどの被害があり、2012(平成24)年までに復旧工事が行われた。これ以外にも市営住宅では224件の修繕が実施された。


【社会教育施設】

 市民文化センターは、客席天井の落下、ステージ吊物、外壁等に被害を受けて休館し、2012(平成24)年3月18日に再オープンした。このような大空間における天井落下は全国的に発生しており、東京都では直接的な犠牲者もあった。これらを契機にして2013(平成25)年に特定天井に対する法規制が定められた。また、市立美術館も一時休館して改修を実施し、約4ヵ月後の7月15日に再開された。さらに設備改修により2017(平成29)年10月から再び休館し、翌年7月7日に再オープンした。

 開成館をはじめとする安積開拓に関する諸建物も災害復旧工事のため開成館が2012(平成24)年11月16日まで、安積開拓官舎および入植者住宅が8月18日まで休館となった。その後、2014(平成26)年に屋根の改修などが行われた。その他の社会教育施設としては、少年湖畔の村が2011(平成23)年7月29日まで、青少年会館が10月31日までそれぞれ休館として、災害復旧工事が行われた。


【中央図書館】

 中央図書館は視聴覚ホールや主要構造部の復旧のため、2012(平成24)年3月9日まで閉館して災害復旧工事が行われ、翌10日から開館した。この間は各地域図書館や各分館が2011(平成23)年5月10日までに順次再開されたため、そちらで貸出・返却などの対応を行った。その後、2016(平成28)年8月から本格的な耐震補強工事・電気機械設備工事のため再度閉館し、2017(平成29)年8月1日に再オープンした。


【公民館等施設】

 各地域・地区の公民館・センターは被災直後に合計44ヵ所で休館となったが、5月はじめから順次再開され、7月末までにはほとんどが再開された。休館となった施設のうち災害復旧工事により再開が翌2012(平成24)年までずれ込んだのは、安積総合学習センター(2月5日まで休館)、富久山公民館富久山分室(7月11日まで休館)、日和田公民館文化体育館(8月13日まで休館)である。多くの公民館等は比較的小規模な建物が多いため、被害を免れて早いうちに再開することができた。


【中央公民館・勤労青少年ホーム】

 中央公民館・勤労青少年ホームの被害は柱や壁にせん断破壊が生じるなど著しく、文部科学省の委託調査でも大破の判定を受けたことにより耐震改修による再開が困難となり、桃見台公民館へ執務室を移転して業務を継続することとなった。そこで郡山市は2012(平成24)年2月に現敷地内に新築再建することを決定し、市内各団体の代表者を含んだ再建検討委員会を設置し、審査により基本設計・実施設計の設計者として(株)NTTファシリティーズ東北支店が選定された。

 デザインのコンセプトは「復興のシンボル」、「過去から未来へ」であり、復興を続ける力=レジリエンスと定義し、1)郡山市民であることの誇り・愛着を歴史で、2)人と人との繋がりを出会いの場とコラボスペースの提供で、3)未来への希望を再生可能エネルギーの最大活用で、「復興の源泉」をかたち作ろうとしている。もう一方の「過去から未来へ」として、建設地が安積疏水の記念碑的存在で日本遺産でもある「安積疏水麓山の飛瀑」近くであり、1924(大正13)年に開館した郡山公会堂(国登録有形文化財)に隣接しており、震災復興のシンボル的な施設と位置づけた。この隣接する公会堂の歴史的な外観をそのまま施設の内部へと引き込むようにデザインしたのが、1階ホワイエ内壁に採用したタイルのアーチ状パターンであり、この壁面デザインを公会堂から離れるにつれて徐々に現代的なイメージへと変化させることで未来へと繋いでいる。また、500人収容の多目的ホールは「楽都郡山」を象徴するように、スタインウェイのフルコンサートピアノを備え、残響時間を1秒から3秒まで可変できる高性能音響システムを導入した。図3に再建新築された同建物を示す。公会堂の時計塔と中央公民館のタワーとの対比も「過去から未来へ」を表現している。(郡山市提供資料および『NTTファシリティーズ一級建築士事務所ホームページ』<https://www.ntt-f.co.jp/architect/ building/koriyama-hall.html>参照2024年2月13日)

 工事は2013(平成25)年に着工し、2015(平成27)年2月に竣工、4月4日にオープニングセレモニー、4月6日に再オープンを迎えた。その後、2016年グッドデザイン賞を受賞している。

 隣接する郡山市公会堂は被災後に復旧工事のため9月30日まで休館して再開された後、構造補強工事のため2017(平成29)年に再び休館し、2018(平成30)年7月に再オープンとなった。(郡山市『郡山市公式ホームページ』<https://www.city.koriyama.lg.jp/soshiki/152/>参照2024年3月5日)


図3 再建新築された中央公民館・勤労青少年ホームと公会堂

 

【体育施設】

 開成山地区の体育施設では、野球場が市役所本庁舎被災により一部執務場所となったため6月27日まで休場、弓道場が7月31日まで休場となった。また、陸上競技場は災害復旧および大規模耐震改修工事のため2012(平成24)年9月7日まで休場となった。

開成山水泳場は、被災および老朽化のため休場となった後に建替が決定した。新水泳場は屋内温水プールとすることとし、2014(平成26)年の解体工事に続いて建設された。完成後の2017(平成29)年7月22日には日本水泳連盟公認国内一般プールAとしてオープニングセレモニーが催された。(郡山市(2021)『郡山市まちの記憶・市民の記憶』)


【総合体育館】

 大体育館は柱や壁に亀裂が多く生じ、ガラスの飛散、屋根鉄骨トラスと柱の接続部分のボルトが破断するなどの被害を受けた。そのため開口部の閉塞や接合部の補強など大規模な改修工事が行われることとなり、2013(平成25)年4月5日に再開館した。また、小体育館は2012(平成24)年1月31日まで、剣道場・柔道場は2011(平成23)年10月25日まで改修工事で休館となった。この間、剣道場は福島県外から派遣された自衛隊員の仮宿舎として4月から6月まで貸し出された。

 その後、小体育館・剣道・柔道場も大規模改修のため2012(平成24)年7月1日に再度休館となり、大体育館と同様に2013(平成25)年4月5日に再開館した。


【民間建築物】

 木造住宅をはじめとして、マンション、オフィスビルなど多くの建物が被害を受けたことは、り災証明書発行状況から見ても明らかである。これらの復旧状況は公共建築物よりも遅くなりがちであり、理由として資金不足、マンションの修繕積立金不足、事業承継などがある。都市のスポンジ化と呼ばれる解体撤去されたままの空き地、駐車場への転用などは現状も続いている。