2019(令和元)年10月6日に南鳥島近海で発生した台風第19号は、マリアナ諸島を西に進み、一時大型で猛烈な台風に発達した後、次第に進路を北に変え、日本の南を北上し、12日19時前に大型で強い勢力で伊豆半島に上陸した。その後、関東地方を通過、13日未明に福島県を通過した後に13日12時には日本の東で温帯低気圧に変わった。
雨については、10日から13日までの総降水量が、神奈川県箱根で1,000ミリに達し、東日本を中心に17地点で500ミリを超えた。特に静岡県や新潟県、関東甲信地方、東北地方の多くの地点で3、6、12、24時間降水量の観測史上1位の値を更新するなど記録的な大雨となった。(気象庁(2019年10月19日)『気象庁ホームページ』<https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/report/2019/ 20191012/20191012.html>参照2024年3月1日)
郡山観測所では最大1時間降水量が27.0mm、最大24時間降水量194.0mm、湖南観測所で210.5mmを観測し、10月としては1位となった。市のまとめでは、10月12日0時より翌13日4時までの28時間で総雨量は郡山市役所で173.0mm、最大は中田ふれあいセンターの284.5mmであった。風速は郡山観測所で最大風速16.2m/s、瞬間最大風速25.1m/sを観測した。
(本稿全般にわたり特記ない部分は『郡山市令和元年東日本台風における災害対応検証』2020(令和2)年12月によっている。)
郡山市は台風の接近に備えて緊急庁内防災会議を10月10日と11日に招集し、12日14時からは災害対策本部会議に切り替えて、対策および対応にあたった。その後、災害対策本部会議は2020(令和2)年12月25日開催分まで49回開催された。政府は今回の災害を10月18日に特定非常災害とすることを閣議決定し、10月29日には激甚災害に閣議決定した。また、気象庁は顕著な災害をもたらした台風19号について、2021(令和3)年2月19日に「令和元年東日本台風」と名称を定めた。(気象庁報道発表資料2021年2月19日)
交通機関では10月12日から計画運休が開始され、台風通過後も運休が続いた。JR東日本の東北本線で10月16日より順次区間運行が始まり、残った矢吹-安積永盛間が10月29日に再開され平常運行に戻った。磐越西線は10月15日より平常運行となったが、磐越東線では11月6日から郡山-小野新町間で運行が再開し、水郡線は11月1日に郡山-常陸大子間が再開した。(郡山市第18回災害対策本部会議資料2019年10月31日)
表7に被害概要を示す。残念ながら人的被害が計7名に及ぶ浸水被害であった。避難所は42ヵ所開設され、そのうち41ヵ所で合計最大3,973人が避難し、およそ2ヵ月後の12月25日にすべての避難所が閉鎖された。
死者 | 6名 |
負傷者 | 1名 |
住家被害(り災調査より) | 7,731件 |
非住家被害 | 2,008件 |
浸水区域 | 14.37平方キロ |
被害世帯推計 | 21,331世帯 |
被害人口推計 | 46,263人 |
農作物等被害額 | 24億5,800万円 |
商工業関係被災事業者数 | 532事業者 |
商工業関係被害額(注1) | 625億5,600万円 |
(注1.新型コロナによる影響も含む、2020年9月30日時点) |
河川の被害は阿武隈川で越水6ヵ所、溢水1ヵ所、谷田川で決壊2ヵ所、藤田川で決壊1ヵ所、逢瀬川と笹原川で越水1ヵ所となり、浸水面積が広域に及んだ。そのため農作物や商工業関係の被害額もきわめて大きくなり、特に中央工業団地と周辺部の水没により被害額の85%がここに集中した。
表8に公共施設などの浸水被害件数を示す。学校では赤木小、永盛小、小泉小の被害が大きく、10月23日から周辺他校の教室を借りて授業を再開した。このうち小泉小は12月2日に自校に戻り、12月23日には赤木小および永盛小の1、2年生を除く児童が自校での授業を再開した。永盛小の1、2年生は緑ケ丘一小に残り、全児童が自校で授業が再開出来たのは2021(令和3)年2月17日になってからであった。(『毎日新聞』2019年12月24日<https://mainichi.jp/articles/ 20191224/ddl/k07/040/105000c>)
公立学校以外では日本大学工学部、日大東北高校、帝京安積高校が休校を余儀なくされ、日大東北高校が10月23日、日本大学工学部と帝京安積高校が11月5日に授業が再開された。(『毎日新聞』2019年10月31日<https://mainichi.jp/articles/ 20191031/ddl/k07/040/187000c>)
項目 | 庁舎 | 学校・保育所等 | 文化・スポーツ施設等 | 衛生施設 | 下水道処理施設 | 水道施設 | 公園 | 消防詰所 | 保育施設 | 医療施設 | 福祉施設(障がい) | 福祉施設(介護) | 福祉施設(救護) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
件数 | 1 | 4 | 12 | 3 | 9 | 6 | 2 | 4 | 3 | 1 | 12 | 10 | 1 |
(令和元年東日本台風における災害対応検証より筆者が作成) |
全市にわたり市民生活に影響を及ぼしたのが衛生施設である富久山クリーンセンターと衛生処理センターの浸水による稼働停止である。このうちリサイクルプラザと不燃・粗大ごみ処理施設(不燃ごみ)が11月29日に、不燃・粗大ごみ処理施設(缶類)が12月9日に、焼却施設が12月16日に仮復旧した。富久山クリーンセンター全施設としては2021(令和3)年3月26日に本復旧した。衛生処理センターは第1処理施設が2021(令和3)年1月27日、第2処理施設が2月14日にそれぞれ仮復旧し、その後本復旧に向かった。(郡山市報道資料2019年12月12日、2020年3月29日)
この間の処理については、周辺市町村による広域処理に頼ることとなり、家庭ごみでは福島市、浪江町、南相馬市、南会津地方、双葉地方、白河地方、田村広域の各組合に協力を仰いだ。また、し尿処理では福島、田村広域、石川地方、白河地方、会津若松地方の各組合に協力を仰いだ。(郡山市第19回災害対策本部会議資料2019年11月5日)
表9にり災証明書発行件数を示す。この件数は発行件数であるため、表7のり災調査の件数とは異なっているが、大規模半壊以上が34.9%にも上っている。
区分 | 居住者用 | 所有者用 | 合計 |
---|---|---|---|
全壊 | 631 | 757 | 1,388 |
大規模半壊 | 942 | 1,030 | 1,972 |
半壊 | 2,930 | 1,822 | 4,752 |
一部損壊 | 1,253 | 266 | 1,519 |
合計 | 5,756 | 3,875 | 9,631 |
(郡山市事務報告書より集計、2022(令和4)年3月31日現在) |
り災調査にあたっては他の自治体からも職員の派遣があり、11月5日までに福島県から30名、新潟県および市町村から3期にわたり延べ101名が派遣された。また、災害ごみの収集・搬出作業には自衛隊の協力で11月3日の終了までに5,744トンが処理された。加えて路面清掃においては10月28日まで北海道開発局、秋田河川国道事務所などの協力があった。
市内には4ヵ所のボランティアセンターが社会福祉協議会により設置され11月4日現在で2,574名に協力を得ることができ、さらにはセンターの運営自体にも近畿ブロック社会福祉協議会職員の応援があった。この他にも自治体、企業、学校、団体からのさまざまな援助が復旧活動に多大な貢献をした。(郡山市第18、19回災害対策本部会議資料2019年10月31日、11月5日)