9 今後の避難所における課題

 現在、避難場所については郡山市公式ホームページにおいて詳細に公表されている。郡山防災ウェブサイトには、避難場所の他、各種ハザードマップ、緊急時の連絡先、安否確認災害伝言ダイヤル、防災無線等の直接的な情報発信の他、防災メールマガジンや郡山減災プロジェクト、さらにfacebook、X(旧twitter)等のSNSを活用して防災に関する啓蒙活動も積極的に行われている。また、サイトからは避難場所以外にも郡山市地域防災計画へのリンクも開かれていることから、市の防災対策への取り組みの詳細も公開されている。今後は、さらなる市民への周知と活用の活性化が求められるものである。

 避難所に関する課題等については、災害の種類や被害規模により避難所における課題点も異なってくる。東日本大震災時のように避難生活が中長期に及んだ状況下では、ハード面とソフト面の両面で種々の課題が顕在してきた。避難生活の時間が経つにつれ、生活環境での問題も発生し、避難所毎の収容密度の差異や、冬期間での暖房状況、入浴設備、温かい食事の提供などの課題が顕在し、さらに大集団の生活でのプライバシーに関する問題や、肉体的・精神的ストレスによる問題も生じていた。プライバシーを確保するために体育館などの広い空間において、段ボール等で作られた簡易的なパーティションにより家族単位で仕切られるようになったが、着替えや授乳などの問題、音や臭気の問題等に対しての対応にはならなかった。その他防犯上の問題などが生じていた。

 前述の表にあるパーティションの備蓄数量の目安も整備状況も十分とは言えず、プライバシー確保に関する課題解決には不十分である。東日本大震災時には、体育館や公民館などの大空間において長期生活する中で、プライバシーを確保することは非常に困難な状況にあった。これら、初期的なプライバシーに関する問題点を緩和しようとボランティアによる衝立の設置が行われた。「ビッグパレットふくしま」において避難生活者のスペースとなっていた展示ホールに、建築家坂茂氏が設計提案した、紙管と布による間仕切りのシステムがボランティアにより設置された。後に、この坂茂氏による紙管の仕切りは世界的にも注目された。「あぶくま養護学校」には、福島県郡山地区木材木工工業団地協同組合が設計作成した木製パネルによる衝立が設置された。大空間が仕切られたことで世帯単位の空間が作られたことと、木製パネルという比較的しっかりした素材の衝立で、木の香りで気持ちが安らぐと避難者にとても好評であった。その後、一部パネルを縦方向に設置し、着替えなどに使える場所としても利用された。これらのようにパーティションの準備は、避難所での生活環境や感染症対策等にも効果があると思われる。

 また、東京2020オリンピックの選手村で使われたダンボールベッドは、その有用性などから自治体や避難所でも導入が進められるようになっている。市でも段ボールベッドの整備を行っているが、パーティション同様数量目安も整備状況も不十分である。段ボールベッドはエコノミークラス症候群の予防や床に直接毛布などを敷いて寝るよりも快適性が得られること、直接の床面より高めの温度が保て暖かいこと、さらに床との距離を離すことで新型コロナウイルス対策の一つになる等、避難所でのメリットは大きい。朝日新聞デジタル2020(令和2)年6月24日(見崎浩一)の記事には、市有施設としては最大規模の避難所である郡山総合体育館で市職員約120人が、「三密」を防ぎながら生活スペースを確保するための手順や、間仕切りや段ボールベッドを組み立てる方法などを確認した、と記している。新型コロナウイルス感染症の発生初期のころであるが、コロナ対策として広いスペースを確保した場合、最大1,370人が可能だった郡山総合体育館は8割以上減の224人しか収容できないことが判明したとしている。収容可能人数の見直しについては、感染症等の対応も含めた想定が必要となることは避けられない。

 一方、生活環境に支障を来たす要配慮者を対象に開設される福祉避難所が設定された事は、東日本大震災時の課題の一つを解消したものであると言える。

 東日本大震災の広域化・長期化した避難所の様々な問題点や課題についても地域防災計画等に活かされてきている。今後も随所に反映されていくことが望まれる。

(山形 敏明)