(5) 予測困難な時代の教育創成へ向けて

 この10年間は東日本大震災と令和元年東日本台風被害からの復興、新型コロナウイルス感染症禍での教育の継続など、これまで誰も経験したことのない困難な10年間であった。このような状況下においても本市は、常に教育課題に真摯に向き合い、教育の動向を正しく把握し、未来を見据え、先進的な教育環境を整えてきた。

 ここでは、2020(令和2)年度・2021(令和3)年度、郡山市の学校教育推進構想の五つの柱のうち「総合的な応用力の育成」「思う存分学べる教育環境の整備・充実」「連携教育の推進」との関連を図りながら、学習指導要領の変遷及び、本市教育の先進的な取り組みと課題解決のための取り組みの視点から述べていく。


a 学習指導要領の変遷

 学習指導要領の改訂が2008(平成20)年度と2018(平成30)年度に行われ、二つの学習指導要領に基づいて本市の10年間の教育が推進されてきた。

 2008(平成20)年度改訂版は、「分数のできない大学生」が社会問題となった、「ゆとり」の中で「生きる力」をはぐくむ1998(平成10)年度版学習指導要領からの脱却が大きな改訂のポイントで、小学校では国語・社会・算数・理科・体育の授業時数を10%程度増加させ、小学校低学年では週2コマ、高学年では1コマの授業時数を増加させた。中学校においても同様に、国語・社会・数学・理科・外国語・保健体育の授業時数を10%程度増加させ、各学年週あたり1コマ授業時数を増加させた。

 2018(平成30)年度改訂版は、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を学校と社会が共有するなど社会に開かれた教育課程の編成と、主体的・対話的で深い学びを通して知識の理解の質を高め資質能力を育んでいくこと等を重視した。


b 郡山版小中一貫教育の推進(西田学園義務教育学校の開校)

 本市においては、全国に先駆けて2005(平成17)年度に湖南小中学校を、2007(平成19)年度に明健小中学校を、施設一体型の小中一貫教育(小学校と中学校を同一敷地内で9年間一貫して行う教育のこと。明健中は同時に小泉小、行健二小と施設分離型の小中一貫教育を実施し、本市ではそれを「都市型小中一貫教育」と呼んだ)をスタートさせた。公立学校で小学校と中学校が施設一体型で一貫教育を行うことは全国的にも例がなく、法令上にもこのような形態は規定されていなかった。しかし2016(平成28)年「学校教育法等の一部を改正する法律」により、小中一貫教育をさらに発展的にとらえ小学校と中学校の区別をなくし9年間一貫して教育を行う義務教育学校が制度化された。実に本市が湖南小中学校を開校させてから11年後のことである。

 本市は、湖南小中学校、明健小中学校の小中一貫教育の成果を生かし、2018(平成30)年度に西田中学校、高野小学校、鬼生田小学校、三町目小学校、大田小学校、根木屋小学校の6小中学校を統合させ、県内で初めての義務教育学校として西田学園義務教育学校を開校させ、翌2019(令和元)年度には湖南小中学校も義務教育学校とした。

 西田学園は、小中学校9ヵ年の学びを4(小1~小4)-3(小5~中1)-2(中2~中3)の3つのまとまりとし、小学校5年生から教科担任制や「西田学習」と呼ばれる自学学習を中心としたコース学習を取り入れ、稼床式屋内プールなど、発達段階に大きな開きがある小学校1年生(義務教育学校1年生)から中学校3年生(義務教育学校9年生)が無理なく共に学べる様々な工夫を図るなど、先進的な教育を施す学校であった。


c 小学校英語、プログラミング教育の教科化

 本市においては早くから小学校における英語教育の重要性について認識しており、2003(平成15)年度から国の英語教育特区の指定を受け、2005(平成17)年度から市内全小学校全学年で教科としての英語「英語表現科」の授業が開始された。国では学習指導要領の2008(平成20)年度改訂版でやっと小学校5、6年生に英語が必修化され、2018(平成30)年度改訂版で小学校3、4年生も含めて必修化された。このことに伴い、本市における英語表現科は1、2年生にのみ継続している。

 2018(平成30)年度改訂版においては、小学校におけるプログラミング教育が必修化されたが、本市においては、これまで推進してきた小中一貫教育の中で、プログラミング教育のねらいを確実に達成させ、SDGsのゴール4の理念に基づき、質の高い教育を全ての児童生徒に提供するため、2020(令和2)年4月に「郡山版小中一貫プログラミング教育指針」を策定し、特に小学校においては、全国に先駆けプログラミング教育を教科化した。


d 学校規模の適正化に向けた取り組み

 全国的な少子化の中、本市全体における児童生徒数は減少傾向ではあるが、一方で宅地開発等に伴う局地的な人口の増加や中心市街地における人口減少に伴い、市内各地における著しい児童生徒数の偏在化が大きな問題となった。

 本市においては、児童生徒数の偏在化に伴う様々な弊害を解消するため、2019(平成31)年に「郡山市立学校の学校規模・学校配置のあり方について(基本方針)」を策定した。この基本方針に基づき、学校の統廃合や通学区域の弾力的運用による学区の一部自由化を実施し、児童生徒の偏在化の解消を進めた。

 2019(平成31)年3月には上伊豆島小学校を、2020(令和2)年3月には御舘小学校下枝分校を閉校した。2020(令和2)年3月には田母神小学校と栃山神小学校を閉校し、同年4月に谷田川小学校へ統合、同じく二瀬中学校を閉校し守山中学校へ統合した。

 通学区域の弾力的運用については、一定規模以上の小学校から学区の隣接する別の小学校へ通学する事ができる「隣接区域選択制度」を2019(令和元)年度より、同じく一定規模以上の小学校から通学できる「特認校制度」を西田学園義務教育学校では2018(平成30)年度より、金透小学校では2019(令和元)年度より運用を始めた。


e 「働き方改革」の推進

<勤務時間の把握>

 勤務時間の把握については、2010(平成22)年度から勤務時間管理ソフトを導入し、2019(令和元)年度からは在校等時間として集計できるよう改良した。その後、2021(令和3)年度からは導入した統合型校務支援システムのQRコードにより、瞬時に在校等時間を把握することができるようになった。


<人的配置による支援>

 これまでも市独自の人的配置は継続してきたが、新たに配置したICT支援員の増員をはじめ、部活動指導員、特別支援教育補助員、学校生活支援員、教科専門員(スーパーティーチャー)、複式学級解消補助員、スクールカウンセラーの全校配置、スクールソーシャルワーカーの派遣等、専門的な人材の派遣等により市立学校を支援した。また、2018(平成30)年度から配置したスクールサポートスタッフの人的支援は、2019(令和元)年度以降全校配置となった。


<物的支援による支援>

 2021(令和3)年度には統合型校務支援システムを活用して、通知票、指導要録、調査書の作成、出席統計などが容易となり、教職員の在校等時間の削減につながった。また、大規模校への高速プリンターの導入により、印刷帳合時間の削減につながり、教職員の在校等時間の削減につながった。


<部活動の在り方>

 中学校に勤務する教職員の時間外勤務時間で大勢を示している部活動については、「部活動等のあり方に関する指針」(2018(平成30)年3月作成)を遵守(平日2時間、休日3時間ルール等)することにより、教職員の長時間勤務の解消と児童生徒と向き合う時間増による教育の質の向上を図った。


<その他>

 文部科学省が2019(平成31)年に「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を制定したことに伴い、本市教育委員会では「郡山市立学校の教師の勤務時間の上限に関する基本的な考え方」を示し、教職員が在校等時間を意識する働き方が浸透してきた。

 保護者及び地域の方には、教職員の勤務時間や部活動の指針等の教職員の働き方改革の取組、福島県小学校長会・中学校長会の宣言等を記載したプリントの配付等により、働き方改革及び内容の周知を図り協力を求めた。


f 教育研修センターの取り組み

<研修の充実による教職員の資質向上>

 教育研修センターは、教職員の資質向上を図るため、郡山市立学校教職員研修(基本研修・職能研修・専門研修)を充実させ、特に、今日的な課題に対応するための研修として、「ICT活用指導力向上のための研修」「スキルアップ研修」「授業づくりをサポートする教師塾(出前講座等)」を講座として開設した。さらには専門的分野としての研修(国語科、算数・数学科、外国語科の授業づくり学習会)や校内研修支援を行った。

 また、初任者の採用人数が多くなってきたことから、初任者研修について研修内容の見直しや研修講座の改善を図った。

 2020(令和2)年度には働き方改革として導入した統合型校務支援システムの運用が開始され、その研修会を数多く行ってきた。さらに、統合型校務支援システム導入業者とのシステム改善の会議を月1回実施し、学校からの要望に応える体制を整えた。

 各学校の学校課題解決のために「教育上の課題解決の調査研究」及び「資料提供」、「郡山市公立学校教職員研究物展」等を実施した。若手教員のスキルアップのための研修カフェの開催、新型コロナウイルス感染症拡大防止として対面からオンライン研修及びハイブリット研修に切り替えた研修を行った。


<ICT環境の充実>

 2020(令和2)年度の「教育のDX」の推進では、タブレットドリル(算数科・数学科)を導入するとともに、中学校用LTE型端末2,670台の整備、GIGAスクール構想に伴う児童生徒用タブレット端末16,366台の整備をし、郡山市内すべての児童生徒に対して1人1台端末の供用開始をした。また、タブレット充電保管庫の整備、教授用大型テレビ382台の整備、事務職用PCの整備を行った。さらに、2020(令和2)年度高速校内LANの整備を実施し、小学校サーバのクラウド化を実施した。

 2021(令和3)年度の「教育のDX」の推進では、小・中学校58校にアクセスポイントを整備、学習者用タブレット端末2,636台追加整備、教授用タブレット端末1,576台の整備、教育委員会用タブレット端末の整備、さらには、教育用基盤クラウド化により、行政系ネットワークから教育系単独ネットワーク化への移行を行うとともに、2022(令和4)年度に向けて「GIGAスクール」運営支援センター開設の準備を行った。


<貸館業務>

 教育研修センターは2019(令和元)年9月に郡山市中央図書館3階(郡山市麓山一丁目)から西田町三町目(旧三町目小学校)に移転した。八つの研修室を備え、大規模から小規模までの研修が可能となり、研修室を貸館施設としても利用可能となった。


g 総合教育支援センターの取り組み

<特別支援教育に関すること>

 本市においては、特別な支援を要する児童生徒が増加傾向にあることから、2018(平成30)年度より継続して、特別支援教育専任指導主事1名及び特別支援教育アドバイザー2名を配置し、より専門的な見地から学校を支援してきた。巡回型スクールカウンセラーによる巡回訪問相談も実施し、児童生徒の対応で悩みを抱く教職員に対してアドバイス等を行い、児童生徒の学校生活の改善を図った。

 また、児童生徒の学びの場を決定する市教育支援委員会を年4回(7月、9月、10月、11月)及び、特別支援教育相談会を年2回(6月、8月)開催し、特別な支援を要する児童生徒の適正な就学につなげた。

 さらに、学校のニーズに応えるべく、特別支援教育補助員等の増員に努め、2020(令和2)年度には、前年度より9名増の96名を配置し、特別支援学級のみならず、通常学級に在籍する支援を要する児童生徒に寄り添った支援を行い、本市インクルーシブ教育を推進した。


<不登校等児童生徒への支援>

 不登校及び、学校不適応状態にある児童生徒に対し、適応指導教室「ふれあい学級」において、学習支援や体験活動等を提供し、学校復帰・社会的自立に向けた支援を行った。また、遠方や家庭の事情等で通級できない児童生徒に対しては、方部巡回相談員による方部分室やサテライト分室を開設し、学習保障やソーシャルスキルトレーニングを実施した。

 また、「幼保小合同研修会」や「授業と保育の相互参観」を実施することにより、幼保小連携を推進し、切れ目ない支援体制の充実及び、小1プロブレムの解消に努めた。

 さらに、県と連携しながらスクールカウンセラーを市立全小・中・義務教育学校に配置し、心理的観点から、児童生徒・保護者が抱える課題の解決に向けて助言等を行うとともに、社会福祉の専門的知識・技能を有したスクールソーシャルワーカーを3名配置し、児童生徒を取り巻く環境に関わる事案に対応した。


<相談業務に関すること>

 こども部「こども家庭相談センター」と連携し、学校生活に係る様々な相談や、虐待やDV等、家庭に起因する諸問題に対応してきた。また、児童生徒やその保護者が抱えるいじめ問題等について、弁護士が法律的視点から電話相談に対応する「郡山市いじめ法律相談ホットライン」を開設し、いじめの早期解決に向けた支援を行った。

 また、学校教育に精通した弁護士を委託し、学校現場で発生する諸問題に対し、学校が法的観点から助言を得る「学校法律相談」を実施した。専門家からの適切なアドバイス等により、学校は迅速かつ適切な対応を図ることができ、事案の早期解決と教職員の負担軽減につながった。

(栁沼 文俊・早﨑 保夫・小山 健幸)