2015(平成27)年4月1日に行った組織改編は、「将来を見据え時代の変化に即応できる組織体制」、「各種施策の効率的かつ効果的な推進を図り、変化に的確かつ柔軟に対応できる課題対応型」の構築を目的とした。
特に、新設された文化スポーツ部は、「音楽都市の推進」や「2020年開催の東京オリンピック、パラリンピック」を視野に入れ、さらなる交流人口の増加と地域振興を図るため、文化振興課とスポーツ振興課、そして国内外へのプロモーションを担う国際政策課の3課で組織された。以下、3課で連携した主な取り組みを記述する。
a 音楽都市郡山と音楽活動拠点の整備
特に郡山市は、市民の音楽活動を支援する拠点づくりのため、2013(平成25)年4月の郡山市音楽・文化交流館「ミューカルがくと館」の全館オープンに続き、2015(平成27)年4月には、中央公民館・勤労青少年ホームの新築再オープンに併せて、約500名収容可能な多目的ホールを新設し、世界的な名器であるスタインウェイグランドピアノを常設した。これら施設により、子供たちをはじめ多くの市民は、優れた音響効果のもとで設備等を気軽に利用することができるようになった。
b 日本遺産の認定
当初、郡山市は風評被害の払しょく、交流人口の増加、安積開拓、安積疏水開さくの意義を次世代へ末永く継承するために、日本三大疏水と言われる安積疏水、那須疏水、琵琶湖疏水と連携し、世界遺産登録への取り組みを模索した。そのような中、国は東京オリンピック等の開催に合わせ、インバウンド(訪日外国人旅行)対応として、2015(平成27)年に「日本遺産」の認定事業を創設した。これは、文化庁が地域の歴史的な魅力や特色を通じて我が国の文化や伝統を語る物語を認定し、様々な文化財群を総合的に活用する取り組みを支援する制度であり、その申請方法は、単独か近隣自治体との共同申請となる。
郡山市は、世界遺産登録に係る課題が多いことから、日本遺産の認定に隣接する猪苗代町と共同で取り組み、2016(平成28)年4月25日に全国22番目、福島県初(『福島民報』2016年4月27日)として認定された。
物語のテーマは、『未来を拓いた「一本の水路」―大久保利通“最期の夢”と開拓者の軌跡―』である。
その物語の概要(注1)は、「明治維新後、武士の救済と、新産業による近代化を進めるため、安積地方の開拓に並々ならぬ想いを抱いていた大久保利通。夢半ばで倒れた彼の想いは、郡山から西の天空にある猪苗代湖より水を引く安積開拓・安積疏水開さく事業で実現した。奥羽山脈を突き抜ける一本の水路は、外国の最新技術の導入、そして、この地域と全国から人、モノ、技を結集し、苦難を乗越え完成した。この事業は、猪苗代湖の水を治め、米や鯉などの食文化を一層豊かにし、さらには水力発電による紡績等の新たな産業の発展をもたらした。未来を拓いた一本の水路は、多様性と調和し共生の風土と、開拓者の未来を想う心、その想いが込められた桜とともに、今なおこの地に受け継がれている。」(郡山市(2022年3月31日)『郡山市公式ホームページ』一部抜粋<https//:www.city.koriyama.lg.jp>)とした。
認定後は、官民で構成する日本遺産「一本の水路」プロモーション協議会が中心となり、PR動画の制作や周遊コースの企画をはじめ、構成文化財等の整備や広報活動を行った。特に2017(平成29)年4月には、開成山公園の桜を調査し、明治初期(1878年)に植栽した桜が「日本最古」である可能性が判明した。さらに、地域一丸となって取り組む『日本遺産「一本の水路ブランド」認証産品・活動事業』を進め、優れた産品や優れた活動を行っている団体等を、開拓者精神の象徴としてブランド認証した。現在も各種団体等と協働で、日本遺産ストーリーの普及啓発と日本遺産の魅力発信を推進し、地域の活性化を図っている。
なお、当初の申請は、猪苗代湖が2市1町にあることからこの枠組みで検討したが、会津若松市は他の物語による単独申請、さらには戊辰戦争の歴史から参加を辞退した経緯があった。また、この物語は、担当職員等による「文化財の掘起し」や「各地に伝わる歴史などの聴き取り」、「文化庁との打合せ」などをはじめ、多くの方々の協力や支援による結果であり、国内外へのプロモーションを担う国際政策課と文化振興課が連携した新たな組織改編による成果の一つと言える。
注1.『資料編』第4編・23-17に全文を掲載。
c 国際的スポーツイベントへの挑戦
また、連携事業として取組んだのが、2019(令和元)年開催の「ラグビーワールドカップ」の事前キャンプ誘致と、「2020(令和2)年(実際はコロナで2021(令和3)年開催)東京オリンピック、パラリンピック」のホストタウンの指定である。
ラグビーワールドカップの事前キャンプ誘致は、施設等の整備や受入れ準備など、課題が多かったことから断念することとなった。
2020東京オリンピック・パラリンピックの合宿誘致は、2015(平成27)年6月に推進協議会を設立し、合宿誘致につながるホストタウンの指定について施設の整備や受入れ、受入国などの調査、研究等を進めてきた。
郡山市の東京五輪ホストタウンは、2016(平成28)年1月25日に安積開拓、安積疏水開さくの縁から姉妹都市があるオランダのホストタウンとして一次登録され(『福島民報』2016年1月26日)、さらに、2019(平成31)年4月26日には、鯉による交流を通じたハンガリーのホストタウンに登録され(『福島民報』2019年4月27日)、その結果、ハンガリー水泳チームの事前合宿が2021(令和3)年7月10日から開成山屋内水泳場(2017年7月オープン)で行われた(『福島民友』2021年7月11日)。