こおりやま文学の森資料館は、敷地面積6,200平方メートルの中に、文学資料館と鎌倉市二階堂にあった故久米正雄邸を移築した久米正雄記念館からなり、2000(平成12)年2月に開館し、久米正雄、宮本百合子、石井研堂、高山樗牛、鈴木善太郎、中山義秀、東野辺薫、諏訪三郎、真船豊、玄侑宗久、古川日出男など郡山ゆかりの作家に関する資料を常設展示・紹介している。
1962(昭和37)年、次世代を担う青少年の文学への関心を高める目的で制定された文学賞に、「久米賞・百合子賞」(公益社団法人郡山青年会議所主催)がある。その後、郡山市内文化人及び郡山青年会議所により、1997(平成9)年、鎌倉市二階堂にあった久米正雄邸の郡山市への移築陳情などにより、郡山市が久米家より寄贈を受け移築が決まった。その後、郡山市に文学館を建設する気運が高まり、久米正雄記念館と併せて文学館開設に至った。
郡山は明治以後、安積開拓により急速に発展した。その開拓の中心が開成山であった。開成山は、中條政恒の座右の銘「開物成務」から名付けられた。当時、開成山大神宮付近には「放れ森」と呼ばれる小高い丘があり、当時を偲んで「文学の森」と名付けられた。郡山市立美術館に隣接する箇所への開設も検討されたが、最終的に、近代日本の歴史と郡山市の発展に深く関わる開成山に隣接する現在の場所に文学館開設に至ったのである。
【2012(平成24)年】
特別企画展として、「工藤直子の世界~『のはらうた』そして、『あいたくて』~」と「宮沢賢治と玄侑宗久~慈悲の心とその風景~」を、企画展は、「夏目漱石と久米正雄」を開催した。文学講演会は、「龍馬伝~新たな竜馬像を創る~」(脚本家・福田靖)を、文学講座は、「事業としての文学~久米正雄を中心に~」(日本大学准教授山岸郁子)等、16回実施した。文学散歩は、福島市・二本松市周辺を訪れた。文学の集いは、「京ことば『源氏物語』」(女優・山下智子)等を3回実施した。第13回三汀賞俳句募集には14,871句の投句があった。
【2013(平成25)年】
特別企画展として、「佐野洋子の世界~『100万回生きたねこ』の魅力~」と「渡辺淳一と『遠き落日』」を、企画展は、「収蔵資料展」を開催した。文学講演会は、「佐野洋子を語る」(詩人・工藤直子:絵本作家・広瀬弦)を、文学講座は、「芥川龍之介『羅生門』を読む」(庄司達也)等、16回実施した。文学散歩は、会津若松市を訪れた。文学の集いは、「百人一首を楽しみましょう」等を3回実施した。第14回三汀賞俳句募集には14,697句の投句があった。
【2014(平成26)年】
伊藤幸夫が第6代館長に就任。特別企画展として、「14ひきシリーズ誕生30年いわむらかずお絵本原画展」と「高山樗牛展~鷗外が恐れ、漱石が嫉妬した才能~」を、企画展は、「郡山の俳句史」と「久米家に残された美術工芸品」を開催した。文学講演会は、「八重の桜~新島八重の生き方に学ぶ~」(脚本家・山本むつみ)を、文学講座は、「古典と俳句」(俳人・西村和子)等、16回実施した。文学散歩は、勿来・北茨城方面を訪れた。文学の集いは、「文学の森俳句会」(横山節也)、「早春の民話会」(ふくしま四人会)等を5回実施した。第15回三汀賞俳句募集には14,105句の投句があった。
【2015(平成27)年】
特別企画展として、「金子みすゞ展」と「ふくしまの女流文学者たち~中央の文学から土着の文学へ~」を、企画展は、「収蔵資料展」を開催した。文学講演会は、「みんなちがって、みんないい。~金子みすゞさんのうれしいまなざし~」(金子みすゞ記念館長:矢崎節夫)を、文学講座は、「『万葉集』を読み味わう」(福島大学教授井実充史)等、16回実施した。文学散歩は、那須与一に関わる旧跡を訪ねた。文学の集いは、「京ことば『源氏物語』若紫」(女優・山下智子)など5回実施した。第16回三汀賞俳句募集には17,831句の投句があった。
【2016(平成28)年】
特別企画展として、「かこさとしの世界」と「深見けんじ展」を、企画展は、「収蔵資料展」を開催した。文学講演会は、「片隅の文学」(俳人・西村和子)を、文学講座は、「芥川龍之介『舞踏会』を読む」(東海大学教授伊藤一郎)等、16回実施した。文学散歩は、詩人草野心平の心のふるさとを訪ねた。文学の集いは、「古典に親しむ~『今昔物語集』の魅力~」(伊藤幸夫)等を6回実施した。第17回三汀賞俳句募集には19,887句の投句があった。
【2017(平成29)年】
三輪晶子が第7代館長に就任。特別企画展として、「中原中也祈りの詩」と「みんなだいすき“ばばばあちゃん”さとうわきこ絵本原画展」を、企画展は、「収蔵資料展」を開催した。文学講演会は、「生誕110年・中原中也の可能性」(中原中也記念館長中原豊)を、文学講座は、「生活者としての作家・黒田三郎を中心として」(早稲田大学名誉教授菅野純)等、16回実施した。文学散歩は、仙台と関わりのある作家ゆかりの地を訪ねた。文学の集いは、「京ことば『源氏物語』」(女優・山下智子)、「こどもまつり」等を6回実施した。第18回三汀賞俳句募集には17,942句の投句があった。
【2018(平成30)年】
特別企画展として、「没後70周年記念太宰治展」と「にじいろのさかな原画展~マーカス・フィスターの世界~」を、企画展は、「収蔵資料展久米正雄と夏目漱石」を開催した。文学講演会は、「太宰との出会い方」(作家・中島京子)を、文学講座は、「茨木のり子の詩の世界」(溝井勇)等、17回実施した。文学散歩は、栃木・白河方面を訪ねた。文学の集いは、「文学の森俳句会」(横山節也)等を5回実施した。第19回三汀賞俳句募集には19,234句の投句があった。
【2019(令和元)年】
特別企画展として、「甦る文豪たち~映像で見る久米正雄・芥川龍之介・菊池寛・徳田秋聲・武者小路実篤・佐藤春夫~」と「11ぴきのねこと馬場のぼるの世界展」を、企画展は、「久米正雄と中山義秀、そして東野辺薫~新収蔵資料を中心に~」を開催した。文学講演会は、「久米正雄と大正期の文学」(宗像和重・山岸郁子・庄司達也)を、文学講座は、「現代文学の始まり~4つの文学作品を読む~」(福島大学名誉教授澤正宏)等、11回実施した。文学の集いは、「百人一首に挑戦」(安積黎明高校かるた部)等を4回実施した。第20回三汀賞俳句募集には17,822句の投句があった。
【2020(令和2)年】
小林和文が第8代館長に就任。開館20周年を迎えた。新型コロナウイルスによるまん延防止等のため、4月18日から5月18日まで臨時休館した。また、文学講演会や郡山市児童作文コンクール優秀作品展等が中止、文学講座等の一部が中止や日程変更となった。
特別企画展として、「開館20周年記念あんびるやすこ作品展」と「開館20周年記念若き久米正雄と第四次『新思潮』」を、企画展は、「こおりやま文学の森20年の歩み」を開催した。文学講演会は、新型コロナウイルスによるまん延防止等のために中止となった。文学講座も、三つの講座が中止となり、「『源氏物語』の女性たち」(根本清夫)等、9回実施した。文学の集いは、二つが中止となり、2回実施した。第21回三汀賞俳句募集では、かねて要望のあった高校生の部を新設し、コロナ禍の中で、17,221句の投句があった。同年4月15日、郡山市と横浜市立大学(担当代表:庄司達也教授)が約100年前に久米正雄等により撮影された文学の森収蔵フィルムの修復に係る協定を郡山市初のweb会議システムで連携協定を締結し、文学の森収蔵フィルムの修復を開始した。
【2021(令和3)年】
新型コロナウイルスによるまん延防止等のため、8月23日から9月23日まで臨時休館した。特別企画展の会期が短縮されたほか、文学講座等の一部が日程変更となった。2月13日(土曜日)、マグニチュード7.3、郡山市震度6弱の福島県沖地震があり、文学資料館及び久米正雄記念館の展示品に被害はなかったが、屋根瓦・外壁・柱・壁紙等を被災した。文学資料館は2月14日から2月18日までと3月1日から3月10日まで、久米正雄記念館は2月14日から3月10日まで臨時休館した。地震のため、文学講座等の一部が中止や日程変更となった。
(翌年、3月16日(水曜日)、マグニチュード7.4、郡山市震度5強の福島県沖地震があり、再び被災し、3月17日のみ臨時休館した。)
特別企画展として、「こぐまちゃんと『あかべこのおはなし』」と「久米正雄生誕130年記念久米正雄と世界旅行」を、企画展は「収蔵資料展寺田弘」を開催した。文学講演会は、「医系の俳人・平畑静塔と澁谷道~二人の蛇笏賞受賞者にスポットライトを当てて~」(俳人・医師:細谷喨々)を、文学講座は、「村上春樹小説の読み方~『ノルウェイの森』を読む~」(福島大学准教授高橋由貴)等、12回実施した。文学の集いは、「読み聞かせ・紙芝居」等を3回実施した。第22回三汀賞俳句募集には、21,657句の投句があった。
同年、5月26日、郡山市及び横浜市立大学は、文学の森フィルム修復の成果を発表した。1924(大正13)年4月4日、久米正雄が雑誌『随筆』の依頼で撮影した玉川遊行の中で、後に文化勲章を受けた里見弴など多数の文人が確認できたことに加え、自然主義の小説家田山花袋の動画映像が初めて確認されたことを発表した。