(2) 開成館

a 開成館の歩み

 郡山市開成館は、現在、開成館のほかに安積開拓官舎(旧立岩一郎邸)や安積開拓入植者住宅(旧小山家・旧坪内家)等で構成されている。

 初代開成館は、1873(明治6)年8月に、上ノ池(現在の開成山公園内五十鈴湖)の西南側に建てられたが、すぐに手狭になり、現開成館を、1874(明治7)年4月に現在の場所に着工、9月には使用された。1875(明治8)年3月に落成式が行われ、第十区区会所(同年12月、福島県の区分改正により第七区)及び開拓事務所として使用された。ここを中心に福島県典事・開拓掛であった中條政恒や開成社を作った郡山の富商等が大槻原(開成地区)の開墾を推し進めた。1876(明治9)年には、明治天皇が行幸され、開成館は行在所となった。行幸の先遣隊として訪れた大久保利通は、この地方を富国強兵、殖産興業、士族授産の新しい開墾地として国策で拓こうとした。なお、明治天皇の行幸の際には、岩倉具視や木戸孝允らが随行した。1879(明治12)年には、安積疏水の起工式が伊藤博文内務卿、松方正義勧農局長を迎えて開成山大神宮で行われ、工事が開始された。1881(明治14)年には、明治天皇が再び行幸され、昼食会場として開成館が使用された。1882(明治15)年に、安積疏水の通水式が行われ、岩倉具視右大臣をはじめ、政府高官が出席した。その翌年に行われた式典(成業の略式)には伊藤参議と品川農商務大輔が出席している。なお、1882(明治15)年に、安積郡役所が郡山村に移転し、翌年開成館に開成山農学校が開校した。この農学校も1886(明治19)年に廃校となり、その後開成館は桑野村役場等として、1925(大正14)年の郡山合併まで使用された。1933(昭和8)年には、国の史跡に指定された。

 戦後、国の指定が解除され、住宅不足緩和のため一時、引揚げ者等の住宅になったが、1960(昭和35)年、福島県重要文化財に指定された。1965(昭和40)年から大規模な修理復元工事が行われ、郡山市の民俗資料館として公開された。その後、旧立岩一郎邸が郡山市に寄贈され、旧小山家や旧坪内家が移築された。1992(平成4)年3月21日に安積開拓発祥の地として郡山市史跡に指定され、現在は安積開拓・安積疏水の歴史を伝える資料館として広い敷地とともに開拓の様子を今に伝えている。また、2016(平成28)年4月25日、猪苗代湖・安積疏水・安積開拓を結ぶストーリー「未来を拓いた『一本の水路』-大久保利通“最期の夢”と開拓者の軌跡 郡山・猪苗代-」が日本遺産に認定された。開成館をはじめ安積開拓官舎(旧立岩一郎邸)、安積開拓入植者住宅(旧小山家・旧坪内家)、安積開拓発祥の地は、ストーリーの構成文化財となっている。

 2012(平成24)年度からの企画展と主な出来事は次のとおりである。


【2012(平成24)年度】 再開館記念「震災をのりこえて-開成館の歩み-」

【2013(平成25)年度】 「碑巡り散歩-顕彰碑・記念碑で知る安積開拓」

【2014(平成26)年度】 「安積疏水の今昔-歴史と現在の姿」

【2015(平成27)年度】 「姉妹都市と安積開拓の歴史」

【2016(平成28)年度】 「明治天皇巡幸と郡山」

【2017(平成29)年度】 「安積開拓の原点-大槻原開墾と桑野村の誕生」

【2018(平成30)年度】 「開成館の歴史と共に辿る-大久保利通と安積開拓」

             2019年度からの指定管理者制度導入を決定

【2019(令和元)年度】 「歴史点描-安積疏水ゆかりの地を巡る」

【2020(令和2)年度】 「立岩家文書と辿る安積開拓の歴史」

            新型コロナウイルスまん延防止のため、4月18日から5月18日まで臨時休館

【2021(令和3)年度】 「安積開拓の歴史と人々のつながり」

            福島県沖地震による被災のため、2月14日から休館


b 開成館の被災と復旧

 2021(令和3)年2月13日に発生した福島県沖地震により、開成館をはじめ安積開拓官舎や開拓者入植者住宅も大きな被害を受け、休館を余儀なくされた。

 特に、開成館の被害は大きく、内外壁や天井紙等が損傷したことから、復旧にあたり被害状況を調査するため、2021(令和3)年度に基礎調査を実施した。

 その結果、地震による被害だけでなく、老朽化が深刻で、特に雨漏り等による屋根・軒の部材等の腐朽が著しいことが判明した。また、耐震性能が著しく低く、現状では資料館として内部に利用者を入れることが困難な状況となった。

 その後、2022(令和4)年3月16日に発生した福島県沖地震で再び被災し、2022(令和4)年度には腐朽箇所など老朽化状況の詳細や耐震補強の可否を調査するため、総点検事業と題して詳細調査を行うこととなった。東日本大震災よりも休館期間が長引くこととなったが、指定管理者である郡山市文化・学び振興公社では、企画展や講演会、講座等の各種事業を郡山市の他施設で開催するなど、サービス提供の継続に努めている。

(小林 和文・文化スポーツ部)