郡山市は1998(平成10)年に郡山市環境基本条例を公布し、基本的な環境政策を示した。条例はその第一条において、「この条例は、環境の保全及び創造について、基本理念を定め、並びに市、事業者及び市民の責務を明らかにするとともに、環境の保全及び創造に関する施策の基本となる事項を定めることにより、環境の保全及び創造に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来の市民の健康で文化的な生活の確保に寄与すること」を郡山市の環境政策の方針として示している。これに基づき、1999(平成11)年に郡山市環境基本計画が策定された。その後、2010(平成22)年に第二次環境基本計画が策定され、2018(平成30)年に第三次計画、2022(令和4)年に第四次計画が作成された。今後は市の総合計画に合わせて4年ごとに計画が更新されていく予定である。本冊の期間は第二次計画と第三次計画の期間と重なる。以下ではこの二つの計画について、各年度の年次報告書を基にその成果を検討したい。なお、環境基本計画は自然保護以外の内容も含み、本冊の別章においても取り上げられているため、ここでは、自然保護活動に関する内容に限定して検討を加える。
第二次環境基本計画は五つの取り組みの柱と16の取り組みの項目から構成されている。このうち自然保護に関するものは、「柱2 自然と共に生きる」の「1 緑豊かな自然の保全」「2 生物多様性の保全」と「柱3 きれいな水を守る」の「1 水質の保全と浄化」「2 猪苗代湖の保全」、「柱5 学び・考え・行動する」の「1 環境教育・学習の場や機会の充実」「2 人材の育成と連携の充実」がある。これらの各取り組みの下に様々な政策が位置付けられている。例えば、「2・1 緑豊かな自然の保全」の取り組みとして「木質バイオマス利活用推進事業」「森林保護対策事業」「森林環境交付金事業」「分収造林事業」「郡山市有林管理事業」などの事業が展開されている。これらの個々の事業について解説をしても煩雑になるため、ここでは計画で設定されているKPI(Key Performance Indicator、「重要業績評価指標」または「重要達成度指標」と訳される)を取り上げ、その成果を検討することにしたい。
表1に郡山市第二次環境基本計画で設定されているKPIとその成果を示した。第二次計画は2017(平成29)年度を目標年度として設定したもので、8年間の実績が示されている。「水源林再生支援整備面積」は、毎年事業によって上乗せされていくもので、2017(平成29)年には目標が超過達成された。これに対し、「カッコウの生息数」は計画作成時に最新の資料であった2006(平成18)年のカッコウの現存数を目標値として設定したが、いずれの年度においても実績が目標を上回っている。
これに対し、河川・湖沼では、「河川のBOD値」こそ8年間のうち5年間で目標を達成しているものの、「猪苗代湖の保全」に関しては、湖心・湖南ともに多くの年度で目標が達成されていない。猪苗代湖の環境保全が今後の重要課題であると言えよう。また、環境教育に関する指標でも達成率は低いものにとどまっている。「どこでも環境教室」の開催回数は年による増減が大きいものの、一度も目標を達成することができなかった。「水生生物による水質調査参加者数」も同様である。「こどもエコクラブ」の登録者数については、震災の影響もあってか、大きく減少している。自然保護教育に関しては、いかにして参加者を増やすかが重要な課題となっている。
2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2017 | ||
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(平成22)年 | (平成23)年 | (平成24)年 | (平成25)年 | (平成26)年 | (平成27)年 | (平成28)年 | (平成29)年 (実績) |
(平成29)年 (目標) |
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水源林再生支援整備面積(ha) | 34.74 | 39.02 | 43.32 | 47.62 | 52.12 | 56.62 | 61.12 | 65.12 | 62 | |
カッコウの生息数(羽) | 126 | 138 | 140 | 132 | 182 | 138 | 178 | 180 | 122 | |
河川のBOD値 | 全地点で環境基準以下 | 全地点で環境基準以下 | 7地点中6地点で環境基準以下 | 7地点中6地点で環境基準以下 | 全地点で環境基準以下 | 全地点で環境基準以下 | 7地点中6地点で環境基準以下 | 全地点で環境基準以下 | 全地点で環境基準以下 | |
猪苗代湖の保全 (湖心) |
COD | 1.0 | 1.0 | 1.0 | 1.3 | 1.1 | 1.1 | 1.3 | 1.2 | 0.5 |
全窒素 | 0.24 | 0.22 | 0.25 | 0.23 | 0.26 | 0.26 | 0.19 | 0.19 | 0.2 | |
全リン | 0.003 | 0.004 | 0.003 | 0.006 | 0.003 | 0.006 | 0.006 | 0.008 | 0.003 | |
猪苗代湖の保全 (湖南) |
COD | 1.1 | 1.1 | 1.3 | 1.2 | 1.2 | 1.2 | 1.3 | 1.3 | 0.5 |
全窒素 | 0.24 | 0.23 | 0.24 | 0.24 | 0.23 | 0.26 | 0.2 | 0.19 | 0.2 | |
全リン | 0.004 | 0.005 | 0.012 | 0.006 | 0.004 | 0.006 | 0.006 | 0.008 | 0.005 | |
「どこでも環境教室」開催回数 | 35 | 19 | 21 | 53 | 35 | 29 | 20 | 51 | 60 | |
水生生物による水質調査参加者数 | 1480 | 829 | 1358 | 1713 | 299 | 174 | 126 | 264 | 1600 | |
「こどもエコクラブ」の登録者数 | 団体数 | 18 | 13 | 6 | 4 | 2 | 2 | 2 | 3 | 70 |
登録者数 | 723 | 469 | 109 | 92 | 40 | 45 | 30 | 45 | 1000 |
出所:「郡山市の環境」郡山市環境部環境政策課 |
2018(平成30)年~2021(令和3)年の時期には第三次環境基本計画が策定された。第三次計画は基本的に第二次計画を受け継いでいるが、取り組みの柱が五つ、取り組みの項目が24と、一部変更が加えられている。このうち自然保護に関する内容は「柱3 自然と共生できるまちづくり」の「1・1 生物多様性の保全」「1・2 森林や農地の保全と活用」「1・3 公園・緑地等の整備」及び「柱4 健康で安心して暮らせるまちづくり」の「2・1 水資源の保全の推進」「2・2 地下水・湧水の保全」、「柱5 環境を思いやる人を育むまちづくり」の「1・1 環境教育の充実と普及」「1・2 環境学習の場の提供」「2・2 環境啓発推進のための体制づくり」「2・3 環境保全活動への支援」があげられる。第二次計画に比べて環境教育に関する部分が充実されていることがわかる。
表2に第三次計画で設定されているKPIとその成果を示した。第二次計画に比べて項目がかなり減少している。「カッコウの生息数」に関しては、2020(令和2)年以降調査されない状態が続いている。これは十分な調査員を確保できなかったためである。「環境啓発イベント参加者数」をみると、2021(令和3)年のみ急増して目標を達成している。これは福島県地域温暖化防止活動推進センター等と連携したイベントなどへの参加者数が増加したためである。2019(令和元)年、2020(令和2)年は東日本台風や新型コロナウイルス感染症の影響などもあり、通常の自然保護活動への参加者が激減した。カッコウの調査ができなかったのはこのためと考えられる。
その他の調査項目では、「河川のBOD値」が全年度で目標を達成したほか、「有害鳥獣による農作物の被害面積」も最終年度に目標を達成している。一方、間伐実施面積は計画後半では目標を達成できなかった。
第三次計画は第二次計画と比べて、取り組み項目が増加しているにもかかわらず、KPI指標の数が少なくなっている。より多くの指標の設定を期待したい。また、第二次計画で課題と指摘した猪苗代湖の水質の改善が第三次計画では指標から外されていること、自然保護活動への参加者の減少に歯止めがかかっていないことなどは大きな課題である。特に参加者の減少はコロナ禍の影響が大きかったためと思われる。今後の増加を期待したい。
2018 (平成30)年 |
2019 (令和元)年 |
2020 (令和2)年 |
2021 (令和3)年 (実績) |
2021 (令和3)年 (目標) |
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カッコウの生息数(羽) | 172 | 104 | 未調査 | 未調査 | 178 |
間伐実施面積(ha) | 302 | 300 | 220 | 246 | 302 |
有害鳥獣による農作物の被害面積(ha) | 7.3 | 4.8 | 5.7 | 3.3 | 4.4 |
河川のBOD値 | 全地点で環境基準以下 | 全地点で環境基準以下 | 全地点で環境基準以下 | 全地点で環境基準以下 | 全地点で環境基準以下 |
環境啓発イベント参加者数 | 1,378 | 608 | 879 | 3,190 | 2,200 |
出所:「郡山市の環境」郡山市環境部環境政策 |