越谷の史的魅力

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越谷市史監修者 萩原龍夫

 数年にわたる共同研究の成果をふまえて、いま越谷市史通史編上巻が、越谷市民はもちろん、地方史郷土史に関心をもたれる多くのかたがたの目の前に提供されることになった。

 越谷にはかずかずの史的魅力がある。われわれ編集員はこの魅力に誇りをもち、あくまでも民衆生活を軸として、その展開を叙述するように努めた。

 たとえば、古くは越谷の地は、関東を貫流する雄大な利根川と荒川との合流点であった。この河川が、当地域に果した役割はきわめて大きい。河川の氾濫は、しばしば地域住民に被害をもたらした。しかし同時に、この河川の利用が、舟運はもちろん、当地域の経済的基盤たる水田農業の広範な展開を可能にした。そこには、日々たゆまず〝水〟とたたかう民衆の、血と汗の歴史があった。

 もう一つ越谷の史的魅力として、〝道〟と民衆生活との深いつながりを指摘することができよう。ことに近世に入って、日光道中の宿場町越ヶ谷宿のめざましい発展は、周辺の数十の村落との間に経済上・文化上、密接な相互交流を生んだ。そのうえ当地域は、大都市江戸の近郊に位置していたため、〝道〟は広く太く開かれ、そこに地域の独自性を保ちつつも決して閉鎖的でない、民衆社会の基盤がはぐくまれたのである。

 われわれは、こうした越谷地域の歴史を、民衆のあゆみという視点に立って、具体的にいきいきと描写することに努めた。市民のかたがた、読者のかたがたに、このわれわれの努力の成果が、心から喜んでいただけるものになることを祈る次第である。