西新井村新井家の所持高は、慶応期(一八六五~六八)現在高三六石六斗二升二合四勺である。西新井村は岩槻領と幕領の相給村であったが、新井家の持高の内訳は幕領分が三六石四斗三合四勺、岩槻領分が二斗一升九合であり、そのほとんどが幕領分であった。この幕領分の当時の定免年貢高は田方で米四七俵余、畑方で金一両一分余である。
新井氏の古い年代の身分役職は不明であるが、天明期から寛政初年(一七八一~九〇)にかけては、関東郡代伊奈氏の手代を勤め、のち鷹匠頭戸田五介組の野廻役を勤めたときもあった。幕末期には村役にもつかず、農間余業も行なわず、純粋の専業農家経営を維持していた。当家には、欠年もあるが、元治・慶応期から明治十年代にわたる支出を記した「小遣帳」、ならびに諸収入などを記した「万覚帳」が残されている。このうち慶応二年と明治七年の収支勘定を、両帳から抽出して作成したのが第40表の(1)と(2)の表である。
第40表 西新井村新井(勲)家収支勘定
(1) 慶応2年
高36石6斗2升2合4勺(定免米 47俵1斗4升)
慶応2年 米23俵(金3分3朱余)
(銭相場 1両=7貫100文)
田入付 1町4反2畝15歩
作徳米 29俵 1反平均 1石3升余(平年)
収入(銭相場7貫100文に金換算) | |||
米 44俵 | 145両1分178文 | ||
灰 2駄 | 1両1分2朱248文 | ||
ほだ | 1両3分 | ||
真木 | 19両1分2朱156文 | ||
粉ぬか | 1朱394文 | ||
小豆 | 1両1分2朱115文 | ||
柿 | 1朱440文 | ||
畑方小作金 | 2両3朱66文 | ||
合計 | 171両2分2朱268文 | ||
支出 | |||
諸役金 | 伝馬出金 | 15両1分3朱387文 | |
兵賦出金 | 2両3朱329文 | ||
本陣出金 | 1両2分2朱 | ||
村役出金 | 1分1朱340文 | ||
藻刈出金 | 3朱187文 | ||
川見分出金賄 | 2分3朱297文 | ||
畑方年貢金 | 3分2朱132文 | ||
検見出金 | 9両3分3朱232文 | ||
拝借返納 | 2朱314文 | ||
小計 | 31両2分3朱3文 | (19%) | |
無尽掛金 | 21口 | 28両1朱272文 | |
(橋無尽などの公共掛金無尽を含む) | (16%) | ||
生産費 | 粕代金 | 19両2分1朱266文 | |
諸道具 | 2両3分1朱412文 | 鍬,蓑,桶,ござ等 | |
小計 | 22両2分29文 | (13%) | |
交際費 | 小遣 | 2両2分1朱92文 | 母,妻子,親類 |
諸香奠 | 1両2分1朱 | ||
諸法事 | 2分3朱200文 | ||
諸駄賃 | 3分400文 | ||
祝儀見舞 | 1分1朱157文 | ||
布施神酒代 | 3分2朱416文 | ||
茶代 | 3朱314文 | ||
酒肴代 | 1両3分2朱375文 | ||
講 | 2両1朱208文 | (嫁講,若者講,田植講,鎮守講,代参講等 | |
小計 | 11両3朱390文 | (7%) | |
需要費 | 衣料 | 8両1分2朱93文 | 銀6匁(反物,足袋,単物,袖口糸等 |
紙筆類 | 3分1朱276文 | ||
燃料 | 1分2朱162文 | 炭付木,ろうそく | |
薬代 | 2分2朱338文 | 万金丹等 | |
雑貨 | 1両1朱40文 | (草履,下駄,傘,箒,ちょうちん,うちは等 | |
盆盛物 | 1朱169文 | ||
正月用品 | 1分3朱400文 | ||
絵画 | 1分424文 | 絵馬,瓦版を含む | |
釣道具 | 308文 | ||
小計 | 12両1分438文 | (7%) | |
その他 | 諸店払 | 34両 | |
借金返済 | 10両 | ||
借金利息 | 1両1分 | ||
小計 | 45両1分 | (26%) | |
食料費 | 煙草 | 1両2朱355文 | |
豆腐 | 2分1朱353文 | こんにゃく,油揚等を含む | |
砂糖 | 2朱355文 | ||
魚 | 4両3分3朱204文 | 鰹,鮪,貝,さんま,干物等 | |
醤油 | 1両2分1朱239文 | 銀59匁 油,酢を含む | |
菓子 | 1分3朱51文 | せんべい,まんじゅう | |
茶 | 2分2朱92文 | ||
酒 | 1両1分400文 | ||
その他 | 1分2朱42文 | うどん粉,そうめん,糀もと | |
野菜 | 1両3朱6文 | 芋,茄子,大根,人参,午蒡等 | |
挽割麦 | 5両1分3朱158文 | ||
大豆挽割賃 | 3両1分45文 | ||
小計 | 21両83文 | (12%) | |
合計 | 171両334文 | 銀65匁 | |
(外に賃金29両 小作人身代金を含む) |
(2) 明治7年
高36石6斗2升2合3勺 年貢米 27俵2斗3合
畑方(金1両2朱57文)
田入付 1町6反2畝15歩 作徳米 38俵1斗
収入 | (銭相場 1両=10貫文 1朱=銭625文) | ||
売米 53俵 | 160両2分3朱425文 | ||
畑方小作金 | 4両2朱453文 | ||
灰 | 3両1分100文 | ||
柿 | 4両 | ||
藁 | 1分 | ||
粕 | 31両1分2朱111文 | (粕40俵 購入代金米61俵 内 粕16俵売 | |
合計 | 203両3分464文 | ||
支出 | |||
諸役金 | 学校・扱所・村入用 | 9両2分327文 | |
畑成金 | 1両1朱57文 | ||
自普請 | 6両3朱195文 | ||
人頭割その他 | 8両2分3朱571文 | ||
小計 | 25両2分345文 | (12%) | |
無尽掛金 | 30口 | 47両1分2朱287文 | (22%) |
生産費 | 道具 | 7両2分295文 | 水車,鍬,千羽こき |
種子 | 2分265文 | なす,きうり | |
小計 | 8両560文 | (4%) | |
交際費 | 年玉小遣 | 9両2分1朱335文 | |
香典・講・供養 | 7両1分3朱483文 | ||
酒代・茶代・見舞礼金 | 9両1分3朱540文 | ||
小計 | 26両2分1朱108文 | (13%) | |
需要費 | 燃料 | 3朱25文 | 炭,付木 |
衣類 | 12両3分1朱275文 | 反物,半襟 | |
家作普請 | 10両1分3朱500文 | ||
諸雑貨 | 21両1分394文 | 大釜 14両傘,下駄,洋傘等 | |
紙筆 | 2両45文 | ||
暦・本・サイモン | 1両2朱475文 | ||
薬 | 3朱400文 | ||
小計 | 48両3朱239文 | (23%) | |
その他 | 諸店払 | 8両3分3朱325文 | |
報恩社返納 | 5両3分1朱380文 | ||
小計 | 13両3分1朱80文 | (7%) | |
食料費 | 煙草茶 | 1両1分3朱375文 | |
豆腐類 | 3分1朱430文 | 豆腐,油揚 | |
魚類 | 12両3分3朱460文 | ||
野菜海草 | 1両2分1朱250文 | 大根,こんぶ | |
菓子果物 | 3分2朱145文 | せんべい,みかん | |
酒糀 | 14両3分2朱450文 | ||
麦 | 3両1分2朱488文 | ||
調味料 | 4両2分2朱488文 | 醤油,酢,味醂,砂糖 | |
小計 | 40両3分586文 | (19%) | |
合計 | 211両1分2朱510文 |
新井家の所持田畑の面積や家族構成は不明だが、反別は持高から推量すると約四町歩近い田畑であったとみられる。このうち田方の入付が一町四反二畝一五歩であり、畑方の入付が五、六反とみられるので、ほぼ二町歩が小作地、残り二町歩が手作り地であったと推定される。田方入付の作徳(小作料)は、平年作で一反につき平均一石三升余であり、例年米三五俵余の作徳所得がある。このほか畑方入付作徳は金納で約三両三分の所得である。
また家族構成は、「小遣帳」による小遣いの与え方からみると、家族は当主のほか母と妻と女子三人の計六名とみられ、新井家の労働人口は妻と長女の三人であったと推定される。ほかに労働力として日傭人を使用しており、身代貸金や時貸などの貸金が多くみられるが、これらの貸借関係や、賃金を含めた雇傭関係の実態は、両帳からは抽出できないので、一応この収支勘定表から除外した。