越谷地域の神社

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まず越谷市域の五一ヵ村にどのような神社があったか調べてみよう。それには文政年間に行なわれた幕府の地誌調査にもとづいて編さんされた『新編武蔵風土記稿』によるのが便利である。それによると次のようである。(以下、風土記稿に掲げられた村の順序に挙げてゆく。○をつけたのは鎮守社である。この鎮守社は現在の各大字の鎮守社と、名は異なってもほぼ同じ神社であろう。しかし明治初年と明治末・大正年代に、神社の合祀が行なわれて、若干の変動を生じているのがふつうである。ここに掲げた末社や小社の中には、もはや今日ではどこのどの社かわからなくなっているものも多い。)

    
第54表 近世越谷市域の神社
岩槻領 長島村 ○稲荷(万蔵寺持)天神・疱瘡(ほうそう)神
谷中村 稲荷三社,天神(以上西福寺の持)
西新井村 ○石神,天神,稲荷二社(以上普門院の持),西教院境内八幡・稲荷
三之宮村 ○香取(密蔵院の持)天神,白山,水神(以上3社一乗院持)
大道村 ○香取(帰命院の持)稲荷(正福院の持)帰命院境内香取
小曾川村 ○久伊豆(当村と砂原村との鎮守,もとは社地が砂原村に属した)花蔵院境内天神
大竹村 ○香取,太神,浅間,第六天,天王,稲荷(以上すべて東養寺の持)
恩間村 付持添新田 ○香取(等覚院の持),天神(延命院の持),稲荷(延命院の持),稲荷(西蔵院の持),稲荷(能満寺の持),稲荷(村民の持)
越ヶ谷領 越ヶ谷宿 神明市神社,八幡,天獄寺境内熊野社,東西院境内稲荷,澄海寺境内天神・稲荷
大沢町 付持添新田 ○香取(別当は光明院,後述)稲荷,浅間,金毘羅,照光院境内天神・妙義八幡合社,稲荷・氷川弘福寺境内稲荷・三峰・弁天
花田村 ○稲荷,第六天(以上西円寺持)
荻島村 ○稲荷,熊野(以上玉泉院持)馬頭院境内諏訪社,明王院境内愛宕社
袋山村 ○雷電,稲荷二社(以上村民持),持福院境内久伊豆社
野島村 ○久伊豆社(村民持),末社……稲荷・疱瘡神,浄山寺境内久伊豆社,常福寺境内熊野社・天神
後谷村 ○稲荷(光明院の持),光明院境内天神
砂原村 (鎮守は小曾川村参照)聖動院境内稲荷・天神
神明下村 ○太神宮(別当は大行院,後述) 熊野社(政重院の持) 稲荷,天王,天神,八幡(以上4社いずれも村民持)
四町野村 ○久伊豆社(当村および越ヶ谷宿・大沢町・瓦曾根村・神明下村・谷中村・花田村の7ヵ村の鎮守,迎摂院の持,後述),神明稲,荷,浅間(以上迎摂院の持),愛宕(弘誓寺の持),稲荷(村民の持)地蔵院境内天神,弘誓寺境内稲荷
七左衛門村 付持添新田 ○稲荷,天神(以上真福寺の持),山王(観照院の持)荒神(村民持),稲荷六社(村民持),観照院境内稲荷(この末社として天神・疱瘡神の2社あり),持福院境内兵主大沼明神
越巻村 ○稲荷,稲荷(以上満蔵院持),天神・弁天(ともに鎮守の末社)
大間野村 付持添新田 ○久伊豆社,弁天(以上光福寺の持),稲荷(正光院の持)天神(越ケ谷宿澄海寺の持),光福寺光境内弁天
八条領 麦塚村 ○女体権現(智泉院の持),末社……第六天・稲荷・天神・疱瘡神牛頭天王,八幡二社,雷電(以上3社村民の持)
伊原村 ○久伊豆社(成就院の持),末社……天王・天神,八幡(地福院の持),末社稲荷,天神(村民の持)
蒲生村 ○久伊豆社(光明院持),久伊豆社(清蔵院持),久伊豆社(村民の持)神明,末社……牛頭天王・熊野三社権現・疱瘡神・稲荷,天神,稲荷(以上3社清蔵院の持),山王(地蔵院の持),荒神(同),八幡(光明院の持),第六天(村の持)
登戸村 ○稲荷,稲荷三社,八幡,天神(以上すべて村民の持)
瓦曾根村 ○稲荷,末社……水神・疱瘡神,弁天社(以上2社照蓮院の持)天神社(最勝院の持)
西方村 ○山王社(別当は東光院),八幡(東光院の持),不動堂(大聖寺)境内東照宮・天神・愛宕・弁天・秋葉,安養寺境内天神・三峰社,福寿院境内稲荷,知性院境内八幡,金剛寺境内稲荷
東方村 ○久伊豆社(安楽院の持),末社……稲荷・天神,浅間社,神明社(末社稲荷・疱瘡神),稲荷二社(以上4社村民の持)
見田方村 ○天王(来福寺の持)末社……稲荷・天神,浄音寺境内八幡社
千疋村 ○稲荷(柿木村万福寺の持),天神,水神(真光寺の持),東養寺境内氷川社
別府村 ○久伊豆社(慈眼寺の持),慈眼寺境内稲荷
四条村 ○山王社(末社……稲荷),天神,稲荷,弁天,水神(以上5社すべて妙音院持)
南百村 ○水神,第六天,天神(以上宝性院持)
新方領 大房村 ○稲荷,八幡,弁天,摩利支天(以上千手院持)
小林村 ○神明(東福寺持),水神(村民の持)
増森村 ○香取(東正寺持),○水神(金蔵院持),弁天(真正寺持),第六天(清覚院持),稲荷(東正寺持),同(観音寺持),同二社(清覚院持)東正寺境内天神・清滝社
中島村 ○稲荷,○諏訪(ともに正福寺持)
増林村 ○浅間(福寿院持),(末社山王),香取(宝蔵院持),香取(村民持),八幡(梅光院持)(末社稲荷),稲荷(梅光院持),天神(大正院持),同(村民持),神明(大正院持),宝蔵院(日蓮宗)境内三十番神堂
大吉村 香取,稲荷(ともに徳蔵寺持)
向畑村 ○香取(千蔵院持),末社……妙儀・稲荷・雷電・疱瘡神,千蔵院境内水神,華光院(山王山と号す)境内山王
川崎村 ○香取(村持,本地十一面観音を安置す),末社……稲荷・吾妻権現・雷電・疱瘡神・金毘羅
大松村 ○香取(向畑村華光院の持,末社稲荷),清浄院境内香取・稲荷
大杉村 ○稲荷(末社香取・天神),稲荷(ともに浄閑寺の持)
弥十郎村 ○稲荷,天神(ともに観照寺の持)
大林村 ○香取(末社天神),明神,白山(以上万蔵寺持)
大里村 ○稲荷,八幡(ともに秀蔵院の持)
上間久里村 ○香取,天神(ともに正覚院の持)
下間久里村 ○香取,稲荷(ともに開演寺の持)
船渡村 ○香取(大泉院持),同(無量院持),天神(同,末社稲荷),山王(同)山王(福王寺持),稲荷(村民持)
大泊村 ○香取(東光院持),香取(村民持),雷電(同)
平方村 ○香取(末社稲荷・荒神),稲荷,女体社(以上西光寺持),香取社(西楽寺持),三島社(月照寺持),鹿島社(同),浅間(崇源寺持)弁天(村民持)

 原則として一村一鎮守となっているが、増森・中島のように鎮守二社の例があり、谷中・大吉のように鎮守を明記しないのもあるが、これらは文政の時の調査のあり方にもよることであり、これだけで決定的なことはいえない。ほとんどすべての神社が某寺持となっているのは、江戸時代のつねとして神仏習合の体制下にあったことを示し、これら寺院はほとんど同村の真言宗寺院である。

 第54表にあらわれた鎮守(四九社ある)社名を分類すると(一社のみのは省略)

  香取 一五  稲荷 一四  久伊豆 八  山王 二  水神 二

となり、大神宮(神明下村)と神明(小林)とは実質は同じことであるからこれを加えてもよい。下総国全般に濃密な香取、埼玉郡に特有の久伊豆、関東一面にすこぶる多い稲荷が上位を占めているのはごく自然であるといえよう。

 右は鎮守の場合だが、第54表に現われたすべての神社名を分類すると(二社以下は省略)

 稲荷 八一  天神 三六  香取 二五  八幡 一四 久伊豆 一二

 弁天 一一  水神  八  疱瘡神 八  山王  七  浅間  六

 第六天 六  神明  六  熊野  五  雷電  五  天王  四

 荒神  三  愛宕  三

となる。鎮守の場合と異なり、天神と八幡とがいちじるしく高まるのは、これらが土地(小地域)の伝統的な守護神としての性格を有していたところから来ているのであろう。弁天は水神とともに水辺の守り神であるから、この地域にはふさわしい神格であり、浅間は修験者によって喧伝されたと考えられる富士山崇敬の勧請神であって、関東の西半分には濃厚な分布を見るものである。第六天は、おおむね運勢を守る神として勝負事に勝つためにこれに祈る風習が関東には多く、越谷地域にほど近い大戸村(現岩槻市大戸)に有名な第六天社(現称第六天神社。東京では明治の神仏分離の際以来第六天は榊神社・高木神社などと改称している)があるためにこの地域にも祀られたものといってよいであろう。また神明は伊勢信仰にもとづくものであり、雷電は雷や雹の害から守ってもらうことを祈るものであり、利根川中流の板倉の雷電社が近世・近代を通じて関東平野一帯の広般な信仰を集めている。天王は正しくは牛頭(ごづ)天王で、京都の祇園や尾張の津島を本社とする、水神ないしは除疫神であり、利根川一帯にはこの天王を神輿に納れ奉って旧暦六月(現在は新暦七月)中頃に町々村々をかつぎ廻る(荒れみこしなどといわれることが多い)習慣が、これも近世・近代を通じてさかんである。荒神はふつうには火の神、かまどの神であり、愛宕は秋葉とともに火伏せの神として有力である。

大林香取社