試作品種の配布

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博覧会や共進会、品評会が農村内の新しい動きを農事改良に結びつける手段であったとすれば、各地の地方的な優良作物品種を普及するための試作の奨励も、農事改良のための努力の一つであった。明治前期より行われていた試作は、二十年代に積極的に行われるようになる。

 いま市域に残存する史料から二十年代以降の試作品種を整理すれば、次のようになる。

  明治二十三年 大麦 ゴールデンメロン(アメリカ産)農商務省  綿 青木小朝鮮・赤木大朝鮮(広島県産)

         大麦 ケープ(イギリス産)農商務省

  明治二十四年 稲 *関取(三重県産)    稲 *白目、入早稲、信州早稲

         麦 *春蒔麦(群馬県産)

  明治二十五年 稲 *〆張(三重県産)     大麦 チッコ(三重県産)

         綿 *青木朝鮮(愛知県産)   藍 百貫藍(徳島県産)

         綿 *大和神楽(山梨県産)   稲 千本(京都府産)

  明治二十六年 裸麦 徳用裸麦(三重県産)   稲 撰一(三重県産)

  明治三十二年 稲 *白儀平(滋賀県産)    稲 *竹成(三重県産)

これらのうち大麦、藍、綿種などは一年のみでなく、数年間試作されている場合がある。たとえば外国産大麦種は、農商務省農務局が数年間試作希望者を各県に問い合わせ、県では各郡に、郡では各町村に問い合わせて希望を募っている。ゴールデンメロン種は明治十五年に輸入されたものであり、このほかのちにはフルーツ種、オレゴン種も移植されて試作希望者が募られていた。この外国産麦種以外は埼玉県が地方税勧業費で購入し、試作希望者に配布したもので、多収穫性や水害に対する強さなどが導入の基準となっている。これら市域全村での試作状況は不明であるが、桜井村では前記*印のついた品種の試作が行われて、その結果が報告されている。試作による作物品種の選定は明治二十七年頃までが主だったようで、三十年代では例外的に行われているにすぎない。三十年代には県農事試験場設立により品種改良が積極的に行われるようになり、改良種は無料配布も行われる。四十三年には、大小麦に関しては虎ノ尾、備前早生、竹林、細稈、赤達磨、南京坊主などが配布されている。この当時桜井村における優良麦種は、穂揃(大麦)、阿弥陀(小麦)であった。