ところで小作地借入の契約はどのような条件で行われたのであろうか。具体的事例を掲げておこう。
借地小作証
南埼玉郡桜井村大字大里
一、田反別 壱反四畝七歩
壱期分 借地料 米壱石六斗弐合
同所
一、畑反別 弐反壱畝弐拾九歩
壱期分 借地料 大麦 壱石三斗壱升八合 大豆 八斗七升九合
右貴殿御所有地ヲ当明治参拾五年壱月ヨリ参拾六年マテ(壱)期間拙者借地小作致候ニ付テハ左之通リ契約ス
一、借地料ハ豊凶ニ不拘 田ハ毎年拾弐月参拾日限 畑ハ毎年大麦ハ六月参拾日、大豆ハ九月拾日限 無相違完納可致候事
一、非常ノ変災ニテ借地料ニ満ツル収穫ノ見込無之トキハ苅取前御検見ヲ受テ借地料相定メ可申事
一、若シ御検見ヲ受ケズシテ苅取リタルトキハ仮令借地料ヨリ減少スルモ減額ノ請求ハ不為候事
一、借地料ノ米穀金完納迄ハ収穫ノ全部ハ其担保トシテ悉皆保管可致事
一、本証記載ノ外地方ノ習慣ニ由リ小作人ノ負フベキ義務ハ堅ク相勤メ可致候事
この小作契約証は(「諸願伺届草稿綴込」深野家)明治三十五年のものであるが、反別、小作料、契約期間、納入期限など以外は印刷された小作証書が用いられている。ということは、すでに記入さるべき件が地主小作関係にはいる当事者の申し合わせに委ねられたほかは、当然に守るべき小作条件として一般化されていたことを意味しよう。右史料の第二項目の条件からこれに該当するが、凶作年の検見規定、検見をうけない場合の減額請求権利の放棄、小作料完納の保証、在来の地主小作慣行の遵守など多方面にわたっている。さらに右史料では省略しているが、小作米取扱上の俵装および搬出に関する注意、小作地の地盤の変形、また貸し、地力の維持、納期厳守等に違反した場合の、無条件での小作地引き上げなども規定されている。