小作慣行の調査

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このような小作条件は市域村々では一般的にどのようにみられるであろうか。小作料や契約期間などの問題も含めて検討してみよう。

 南埼玉郡内村々でみられた小作の種類には、直小作、別小作、家守小作、受負小作などが少なく、もっぱら永小作、名田小作であったという。永小作とは永代預、永代作、世襲小作などとも言い、小作人が長期間耕作権を有し、小作料は低率で小作人が小作地の改良および公租公課を負担するなど、小作人の権利がつよい小作慣行である。名田小作とは普通小作である。市域村々では永小作は増林村に六反歩ほどあったに過ぎず、そのほかはすべて普通小作であった。

 大正元年の小作慣行調査によれば、小作契約の期限は「期限ヲ定メズ、地主ハ小作人不都合ナキ限リ継続セシム」(越谷市史(五)八二一頁)るのが、市域村々では一般的であった。証書を交換する場合にかぎり、その証書に記した三年ないし五年をもって期限とする場合もあり、期限内でも地主必要の場合は引き戻すことが可能であった。また契約違反の場合も、期限内に解約するのが普通であったようである。この解約に関しそれが作付の前あるいは後に行われるかで、市域各町村において賠償または補償方法に相違がみられる。

 小作料は一毛作の上田一反歩の場合、契約小作料一石三斗余の越ヶ谷町がもっとも高く、つづいて一石一斗の新方村、大相模村、蒲生村、一石四升の増林村、一石の桜井村、出羽村、大沢町、荻島村、大袋村などが高く、最低は川柳村の九斗であった。中田および下田の小作料も、この順に高い。畑小作は金納(越ヶ谷町、出羽村、増林村、大相模村、蒲生村、川柳村)と、大麦・大豆納(新方村、大袋村、荻島村、桜井村)とがあり、比較することができないが、金納の村では上畑の場合、越ヶ谷町、大相模村の一反当り小作金六円五〇銭を筆頭に、増林村の六円、出羽村、蒲生村、川柳村は五円であった。

 水田の場合、契約小作料に対する実収小作料は一斗前後減る場合が多いが、この実収小作料は実際の収穫量に対し五〇%前後の比率となっている。小作料率のもっとも高いのは川柳村の一毛作上畑の六六・六%、増林村二毛作の下田六四・八%、蒲生村二毛作の上田六三・三%、越ヶ谷町の一毛作の中田六一%などであるが、水田では五〇%前後が一般的であった。凶作による小作料軽減の慣行は各町村にみられるが、軽減の方法、歩合などは村々により異なっている。小作米(麦豆)の品質検査も行われ、充分に乾燥させた中米以上または上米を指定し、一俵一六貫ないし一六貫八〇〇目以上と決めている場合が多い。これらは地主宅または地主が小作管理を委任する支配人宅まで小作人の負担で運搬するのが普通であった。