営業の情況

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設立後の越ヶ谷貯蓄および鈴木の両銀行の評判は、次のようなものであった。「両行共に各々別個の営業区域を占有し、前者(越ヶ谷貯蓄)は稍々保守にして着実を主とし、後者は稍々進取にして活発を主とするものの如し」(「埼玉経済時報」第三〇号明治三十三年十一月)と言われている。越ヶ谷地域は純粋な米産地で副業の少ない土地であるため、商業界の取引が単調で金融もそのもとで活動するにすぎなかったという。そのため越ヶ谷貯蓄銀行は一般経済界の大勢の影響をうけることが少なく、営業方針も堅実であった。貸し付けは物件よりは得意先の人物を信じて営業したので、担保貸付よりは信用貸付の性格をもっていた。

 進取的性格をもつと言われた鈴木銀行は、設立当初の営業情況は明らかでない。明治三十二年三月より四十年五月まで同銀行の支配人をつとめた深野恒三郎によれば、明治三十六年頃の情況について次の如く記している(「諸願伺届草稿綴込」深野家文書)。

    営業ノ景況

  地方ニ於ケル銀行預金ノ伸縮ハ一ニ農家嚢底ノ潤渇ニ関ス、而シテ本季ハ昨秋ノ減収必然、米価ノ高騰アランコトヲ期シタルニ、却テ金融逼迫ノ余波、漸時低落ニ傾キタリ、然リト雖ドモ下降ハ一時ノ変体ニシテ、他日昇騰スベキ材料ハ農作ノ凶歉ナル、且近時貿易ノ順流ナル等疑フベカラザルモノアリトシ、益々売吝ミノ念ヲ増シ目前ノ費途ハ専ラ銀行ノ預金ヲ以テ之レニ充ツルノ有様ナルガ故ニ前季末ニ比シ稍預金ノ減退ヲ見シハ亦止ムヲ得ザル趨勢ナリトス、預金ノ姿勢已ニ然リ、放資又一層ノ注意ヲ要スルガ故ニ短期回収ノ見込ナキモノハ大抵之レヲ謝絶シ、以テ急変ニ避クルノ準備ヲ為シタリ、以上ハ本店及草加支店ノ状態ニシテ、鳩ヶ谷支店ハ少シク其趣ヲ異ニシ、資ヲ投ズルニ当リ頗ル攷究ヲ要ス、盖シ同地ハ機業盛ンニシテ商況活発ナルガ故ニ中枢ノ波動ヲ被ブル事極メテ迅速ニシテ、一度其針路ヲ誤マランカ終ニ回復スベカラザルノ難境ニ陥ルヲ以テナリ、而シテ同店が本季ニ処スルノ方針ハ惟フニ日ナラズ恐慌ノ来ル事アラン、今ニ於テ機業家ノ資力ヲ膨張セシムルハ策ノ得ザル而已ナラズ却ツテ損失ノ多大ヲ招クノ媒介トナラン、須ラク茲ニ資金ノ減縮ヲ画ルノ外ナシト奮然其挙ニ出デ鋭意回収ヲ為ス。(後略)

 金融逼迫による預金の流入、貸付金の縮少を述べており、越ヶ谷本店、草加、鳩ヶ谷支店のそれぞれの特徴も明らかになっている。三十五年当時の不景気の影響もあるのであろう。

 また鈴木銀行および越ヶ谷貯蓄銀行の営業報告をみると第75表、第76表のようになっている。明治三十八年後半期のみであるが、営業の一斑を知りうることはできるであろう。

第75表 鈴木銀行の営業報告表(第16期 明治38年下半期)
借方 貸方 損益計算
円銭 円銭 円銭
資本金 100,000.00 諸貸金 650,823.00 当期総益金 102,839.68
積立金 80,000.00 割引手形 1,055.938.03 前期繰越金 4,074.81
諸預り金 1,063,577.83 有価証券 256,094.42 合計 106,914.95
仕払手形 377.26 他店へ貸 12,504.08 当期総損金 88,385.53
借入金 778,852.86 営業用地・什器 18,546.71 積立金 16,000.00
再割引手形 113,900.00 抵当流他 15,040.55 賞与金 1,500.00
他店ヨリ借 24,096.13
当期純益金 18,528.95 金銭有高 170,395.23 後期繰越 1,028.95
合計 2,179.342.03 合計 2,179,342.03 合計 106,914.48

明治39年1月9日「埼玉新報」

第76表 越ヶ谷貯蓄銀行の営業報告(第14期 明治38年下半期)
資産之部 負債之部 損益計算
円銭 円銭 円銭
貸付金 8,575.00 資本金 30,000.00 当期純益金 3,419.05
割引手形 54,921.00 積立金 1,920.00 前期繰越益金 230.26
預り金 12,660.65 貯蓄預金 46,013.65 合計 3,649.31
払込未済資本金 23,000.00 諸預り金 31,466.99 当期総損金 2,546.33
営業用什器 557.00 前期繰越金 230.16 積立金 200.00
賞与金 100.00
金銀有高 3,280.27 当期純益金 872.02 配当金 787.58
後期繰越 15.00
合計 110,502.92 合計 110,503.92 合計 3,649.30

明治39年1月21日「埼玉新報」