小作慣行調査

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埼玉県内務部の管轄で県下各郡の三〇ヵ町村を選び、大正九年末から小作慣行調査が着手された。この総括は大正十年九月に完了したが、一九二〇年(大正九)の世界恐慌による農村不況と小作争議頻発の様相に対する対策の一環として、さらに郡役所を通じ各村へ小作慣行調査が大正十年十一月十一日に命ぜられた。桜井村では翌十一年三月に調査総括を終了し提出している。

 越谷市域の地主小作関係の内容を、この「桜井村小作慣行調査」からうかがってみよう。はじめ小作契約が口約束でなされる時は保証人をつけず、証書を取交す時に保証人をつけたが、敷金、保証金は必要としない。小作契約の期間は水田・畑ともに定められておらず、小作人において不都合がない限り毎年継続される。小作料は水田の場合、古くから米納となっており当時においても変りはない。その反当小作料は、契約小作料に対し実納小作料は五升ばかり下廻ってはいるが、収穫高に対する小作料率は五三~五八%となっており、一毛作田と二毛作田との間の相違はない。畑小作料は、普通は大麦・大豆の組合せによる穀納である。小作地生産物以外の物を小作料とすることもあったが、その例で多いのは、生産物が小麦・大豆の場合に、小作料は大麦・大豆とするものである。契約小作料と実納小作料とは同量であり、大麦・大豆を作付けする畑の小作料率は三六%で、小麦・大豆作付けの畑小作料率五二%よりも高率である。

 桑園・茶園・果樹園の小作はない。小作料全体について「込米」等は存在しない。小作料の一時的の軽減をおこなうのは天災による不作の場合で、現物納の五分引きとする。小作料を免除する場合は、耕作物の全部につきその被害が七割以上の場合に限られ、不作の程度による軽減割合は、平年作の三割五分減は小作料五分減、以下四割五分減は四割減、五割減は五割減、六割減は六割減、七割以上減は全免である。減免をなす場合は、小作人の申出により、地主が実地調査の上で決定し、減免歩合は地主側の協議によって決められる。小作料は低落の趨勢にある、と調査書は述べている。

 また、小作料の納期は、大麦が七月末、大豆が九月末、米は十二月末となっているが、滞納の場合に小作料を貸金・現物貸付として利息をとる慣行はない。米穀検査の実施と小作慣行の関係に関しては、一俵当りの乾燥調製・俵装に検査実施前は六〇銭ほどだったのが検査実施後は一円五〇銭になった。その補填についての奨励米は甲合格米に三升、乙に二升、丙に一升で、不合格に対する罰米はない。小作地転貸についてはこの村では少く、転貸の場合は、入営や止むなく手間不足になったとき一時的に小作地の一部を転貸するもので、地主の承諾を必要としたが別に制限はない。小作契約の解除等については、地主が土地使用を必要とした場合に一年前に予告することになっており、地主が小作地を売却する場合は予告は半年前におこなうことになっている。以上が大正十一年の「桜井村小作慣行調査」の内容要約である。