小農は村落産業のにない手たる小生産者であり、また農村手工業の賃労働者でもある。小農と村落産業とは相互補完的関係にある。自作農・小作農ともに昭和十年前後に至るまで、農業外所得を加えればその経済収支が黒字になるが、農業所得のみではその収支は赤字をだすということが指摘されている。このことは小農と村落産業との相互補完的関係を裏付けるものである。大正期に南埼玉郡および越谷市域における村落産業(手工業)生産もこの例にもれるものではない。
南埼玉郡で展開した村落産業のおもなものは、綿織物・帽子・哂業・藁製品・染物・莫大小・麦稈経木・麻真田・刷子刷毛・傘・際物などである。綿織物は、大正十年に、力織機二、足踏織機二九五一、手織機二が使用されており、一戸当り一〇台未満一一七〇戸、一〇~五〇台は三戸、五〇台以上一戸となっている。しかし大正十年に三七〇四台であった綿織機は同十五年には一一七四台、昭和五年には三九二台と、衰退化傾向をたどってる。職工数においても、十年に四一〇七名、十五年一一七〇名、昭和五年四〇一名と減少している。綾綿布、小倉洋服地、白木綿、縞木綿、絣木綿、織色木綿、綿縮、蚊張、綿沙、袴地、敷布、帯地の生産価額も、十年には九八万七五〇二円、十五年には二九万二二六四円、昭和五年には六万六〇九五円となっている。
帽子は麦稈製が主で、職工数は大正五年一一六名、十年五一名、十五年四三名、昭和五年八〇名で、生産額は大正五年の三万八五六二円から、大正十五年の一〇万九八五〇円、昭和五年の一三万円台と上昇している。
哂業は製造戸数、職工数、哂賃合計をみると、大正十年四戸、六人、三七七八円、十五年八戸、二五人、一万〇九五七円、昭和五年九三五〇円と、大正末年にピークを示す。
染物業の、戸数、職工数、絹及び綿染賃合計は、大正十年六二戸、一七九人、一万〇三五〇円および四万八八四三円、十五年六九戸、二〇二人、一万九六七五円および二万七一二一円、昭和五年六三戸、二〇〇人、四一二七円および一一万三二八八円となっている。
莫大小(めりやす)はシャツ、ズボン下、靴下、手袋等である。製造戸数、職工数、生産総額は、大正十年八戸、七八人、三五万七六四四円、十五年七戸八九人、一四万九八五四円、昭和五年九戸、一〇七人、一六万八四三四円と、大正から昭和五年にかけてはその生産は落込んでいる。
刷子刷毛は大正十年製造戸数四戸、職人九人、製造高一五〇〇円で、昭和初期までは増勢を示す。
傘製造は大正五年五〇戸、職人七六人が十年の四一戸、五六人と、規模の縮少をみせながらも生産価額は一万三四七三円から三万七〇〇二円と上昇している。
雛人形・幟・鯉などの際物の製造戸数、職工、生産価額は、大正五年六三戸、一四六人、三万六五八二円、十年九八戸、二〇九人、三六万〇五五二円と生産規模、産額ともに発展を示している。
南埼玉郡の手工業生産における越谷市域の地位はどうか。第24表は、大正四~十四年の蒲生村の手工業生産状況である。染物は、大正九年恐慌後の大正十年に生産数量も生産額も落ちるが、大正十二年以降回復にむかう。石工品は大正七年を最後とし、足袋は大正八~十二年の中断後に生産価額を伸ばす。木製品と竹製品はほぼ一貫して生産を伸ばすが、村の大多数の農家副業たる藁細工は、大正十年に下落し大正末年にいたるも生産額は回復していない。これは南埼玉郡においても同様である。莫大小は大正八~十年に生産が限られている。蒲生村の工業生産額は大正四年から十年にかけて上昇するがそれ以後は停滞傾向である。工業を本業とする戸数は大正十年まで増加するが、工業を兼業とする戸数はほぼ変化がない。本業における家内手工業的性格と、兼業における家計補充的現金収入の方途という性格とが二重写しになっており、全体にわたり大正十年前後におけるピークと大正末年にかけての衰退傾向とが示されていると思う。
大正4年 | 大正6年 | 大正8年 | 大正10年 | 大正12年 | 大正14年 | 備考 | |
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染物数量 | 17,500反 | 19,300 | 16,800 | 13,440 | 30,000 | ― | 捺染物・無地染物の合計 |
価額 | 2,907円 | 3,680 | 5,979 | 4,780 | 5,520 | 7,620 | |
石工品価額 | 600円 | 450 | ― | ― | ― | ― | 大正7年 450円 |
木製品価額 | 650円 | 720 | 1,918 | 2,058 | 3,000 | 2,800 | |
竹製品価額 | 3,130円 | 4,230 | 450 | 1,450 | 4,300 | 4,500 | |
足袋数量 | 1,800足 | 1,600 | ― | ― | ― | ― | 大正7年 1,200円 |
価額 | 360円 | 480 | ― | ― | ― | 1,600 | 〃 13年 1,500円 |
藁細工価額 | 20,946円 | 28,181 | 26,052 | 17,200 | 19,931 | 19,700 | |
莫大小数量 | ― | ― | 8,000個 | 12,000 | ― | ― | |
価額 | ― | ― | 12,200円 | 30,000 | ― | ― | |
その他価額 | 7,245円 | 5,890 | 4,620 | 6,000 | 1,550 | 塩煎餅 4,700 |
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合計 | 36,018円 | 43,631 | 51,219 | 61,488 | 34,251 | 40,920 | |
藁細工戸数 | 392戸 | 402 | 392 | 395 | ― | ― | 農家副業で工業戸数にはいれていない |
塩煎餅戸数 | 12戸 | 10 | 10 | ― | ― | ― | |
工業(本業)戸数 | 39戸 | 40 | 41 | 44 | ― | ― | |
工業(兼業)戸数 | 41戸 | 40 | 41 | 41 | ― | ― | |
村戸数 | 473戸 | 480 | 485 | 485 | 532 | 548 |
(『各年度蒲生村勢要覧』より作成)