日露戦争時より全国に督励された農事改良推進の行政指導は埼玉県においても着々と成果をあげ、越谷市域においても明治末から大正期にかけて改良事業が種々おこなわれた。耕地整理は農事改良のなかでも重要な項目の一つであった。耕地整理の結果、特に注意を必要としたのは用排水路の関係で、これは共同作業によって維持管理をせねばその効果を収めがたいものであった。用水路もその上流域の耕作者がその管理を怠れば下流域では引水することも不可能となり、排水路についても同様な事情にあった。このため「区域内耕地ノ全部ニ亘リテ工作物ノ維持管理ヲ完全ニ施行シ整理ノ効果ヲ発揮セシムル」(桜井「耕作組合規約及往復書類」)ことと、「改良ノ農法ヲ自在ニ応用スルヲ得ルモノナルヲ以テ進ンデ研究ヲ遂ゲ益々生産力ノ増加ヲ図ル」(同前)ことをねらうために県下各地に耕作組合が行政指導の下に組織された。県では耕地整理模範耕作補助とならんで明治四十四年より耕作組合補助を勧業補助費項目で予算化している。桜井村では大正二年三月に各大字を単位とする桜井村耕作組合が設置された。組合員三二〇名(大正三年)で組織された。組合の目的は前述した通りであるが、その区域は桜井村耕地整理地区で事務所は桜井村役場に置かれた。組合員は区域内の耕地所有者と小作人をもってその資格とした。組合の事業は次のごとく規定されている(桜井「耕作組合規約」)。
一、稲及各種裏作種類ノ撰択、種子ノ精撰ヲ共同実行スルコト
二、各種農作物ノ共同採種ヲ実行スルコト
三、稲苗代ヲ共同又ハ集合トナスコト
四、害虫駆除予防ヲ励行スルコト
五、田稗ノ除去ヲ励行シ濫リニ抛棄セザルコト
六、稲ノ正条植ヲ実行スルコト
七、耕地整理模範耕作ノ成績ニ鑑ミ稲作及裏作ノ耕種肥培ノ方法ノ改善ヲ行フコト
八、裏作ノ普及ヲ図ルコト
九、牛馬耕ヲ行ヒ漸次深耕ヲ行フコト
十、適当ナル副業ノ撰択並ニ普及ヲ図ルコト
十一、産業組合ヲ設ケ又ハ本組合ニ於テ肥料、農具、種苗等ノ共同購入及生産物ノ共同加工共同販売ヲナスコト
十二、組合区域内耕地整理ノ道路堤塘用排水橋渠其ノ他ノ工作物ノ修理改設浚渫等ハ毎年春秋二期組合費ヲ以テ之ヲ行フコト
十三、其他必要ト認ムル事項
耕作組合はその運営を一人平均二銭の組合員割と組合員関係耕地一八六町五反歩に対する反別割一反歩二〇銭と県費補助によって賄われており、反別割は土地所有者に賦課された。耕作組合は組合員の灌漑排水に関する設備の変更等に係わる一切の行為を禁止しており、規約に反する行為のある時は一〇銭以上一円迄の違約金が徴収されることになっていた。また勤勉者に対する表彰も規定されている。