図書館活動

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大正三年、明治期から継続された巡回文庫が廃止された。以後は、郡教育会がこれを引継いだが、その実態はあきらかでない。

 市域の図書館については、まず、大相模村の青年文庫について述べねばならない。これは、去る明治四十一年にその設立が計画され、以後着々と準備が進められて来たが、大正二年八月、村内有志者の寄附金二六八円が集められると、内一〇〇円を文庫に投入し準備が完了した。そして、翌九月十五日、郡長、郡視学の来場を得てはなばなしく開始式を挙行した。

 このほか、大正四年、蒲生村の青年団体三友会は、前述のとおり大正二年十月創立されたが、その事業のなかで、菓子屋文庫の設立を計画している。この文庫は、区域内に菓子小売店が多く、青年がよく集まっているので、雑談に時を過すのは惜しいとし、農業書を始め講談書などを菓子店に預託して閲読させようというものであった。果してこれが設立されたかどうかさだかでない。

 そして、こうした図書館活動によって、村が文庫を設立することとなる。それは、大正五年四月、桜井村文庫の発足である。従来、県巡回文庫の時代にあっても熱心な事業推進者であった村当局・小学校長が、県巡回文庫の廃止に刺激され、村の文庫の設置を果したものであろう。設置の目的に「智徳ノ涵養特ニ青年ノ風紀改善ニ資スル」としている点、地方改良運動の影響、青年団体の指導をめざす行政当局の意向をよく反映していると言える。文庫の本の冊数は、全部で四五冊で、やはり青年向けの内容のものが多い。参考までに目録を掲げれば、第35表のとおりである。

第35表 桜井村文庫図書目録
図書名 冊数 図書名 冊数
禅と修養 1 関ヶ原 1
青年訓 1 子供ト父母 1
神社施設ニ関スル注意事項参考資料 1 胆勇尚武美談 1
惣菜料理 1 ボビー君の日誌 1
編物指消 1 先哲坐右の銘 1
人民読本 1 海軍兵学校生活 1
小学生をもてる父兄保護者のために 1 農業道徳 1
通俗明治歴史 1 婦女の巻 1
農具教科書 1 米国十大偉人 1
産業組合詳解 1 通俗教談集 1
国民講演百種 1 その日がへり 1
大石良雄 1 自治の訓練 1
孝子伊藤公 1 初学童子訓 1
処生訓 1 斑鳩平次 1
壮丁読本 1 世界読本 3
育児の栞 1 簿記之栞 1
歴史談その折々 1 豆の手蔓 1
食料品保存法 1 橿原の宮 1
経済一夕話 1 九番人形 1
心学叢書 1 孫悟空 1
囲碁の道しるべ 1 猿蟹合戦 1
明治天皇写真歴史 1

 次に南埼玉郡教育会が行なった壮丁文庫について若干ふれておく。この壮丁文庫は、大正五年一月、郡教育会が示した壮丁教育方案の中にあり、「一国青年ノ能否ハ当ニ其ノ国運ヲ定トスルノ規準トナル」のに現状は、毎年の徴兵検査の成績がきわめて悪く、「共ノ品性及学力ニ於テ、将又国民タルノ自覚ニ於テ、甚タ寒心ニ堪ヘサルモノ多シト聞ク」有様であるので、ぜひこの文庫によって青年の教育を行おうとするものであった。従って、文庫の内容も「壮丁教育最新入営準備書」であり、これを教科書として、在郷軍人、小学校長の協力を得て町村長が講習会を開催しようというものであった。市域は、二区、三区、四区に分かれ(全一一区中)、教科書四〇冊と参考書が各文庫区に配置された。

 このうち、第三区の桜井村・大袋村・新方村・増林村では、五年二月、協定を結び、桜井・大袋と新方・増林の二つに分け、文庫の利用を農閑期の二月二十一日~三月十二日を前者が、三月十五日~四月五日を後者が行うものとした。

 さて、以上、市域に関する図書館活動をみて来たが、簡易図書館の設立は、大正八年の簡易図書館の設立奨励、同十三年の「町村立図書館施設要項」の布達等にもかかわらず、その実現をみなかったようだ。また、町村立図書館の設立も昭和の戦後を待たねばならなかった。しかし増林村では昭和の初期、当時の村長今井晃が自宅の一室を解放、私設の図書館を設置して村民の教導に努めた。

増林私設図書館