このうち昭和七年度に経済更生計画樹立町村に指定された荻島村などでは、昭和六年一月、不況の克服を目標に生活改善実行組合を設け、自力更生の方途を講じていた。この組合の規約によると、組合領域は荻島村一円とし、村内に居住するものは全部が加盟する義務があるとなっている。組合の主な業務は、「組合員各自本分ノ業務ヲ精励シ、日常生活ヲ改善シ、其節約シタル余財ヲ蓄積」する、とあるとおり、貯蓄の奨励とその実行であった。
昭和七年、自力更生に関する施設の県からの問合せに対し、荻島村では、貯蓄組合加入者は三八二名、毎月の貯蓄総額は金九五六円に達するとこれを報告している。そして同七年度の経済更生計画樹立町村に選ばれた荻島村では、更生計画の作成に着手し、翌八年七月荻島村経済更生計画樹立概要書の発刊をみた。
この計画書によると、当時の荻島村の概況は、田四三七町歩、畑一一一町歩、総戸数四二三戸、このうちおよそ九割にあたる三八三戸が農家である。一戸当りの平均所有耕地は一町四反歩、主に米作を主業としているが、これに各種の事業を配する経営を行なっている。荻島村昭和七年度の総生産額は二四万五〇〇〇余円、このうち販売総額は一三万一〇〇〇余円である。
一方同年度内の産業用品、家計用品の購入消費額は、七万二〇〇〇余円、これに家庭用品などの消費額を加えると一六万一〇〇〇余円である。村の経済事情は、負債総額が一九万六七〇〇円余、預金総額は三万八〇〇〇余円である。また貸付総額は三万七〇〇〇余円であるが、荻島村産業組合においては、貸付額五万八〇〇〇余円、預金額は七万四〇〇〇余円であり順調な発展をみている、としている。そして自力更生にはまず精神の作興が第一要件であるとして、その実行要目として、宮城遙拝・国旗の掲揚・敬神崇祖・改善事項協約の実行をうたっている。
次に農業経営改善に関する事項として
(一)全村耕地整理を実施し、二毛作田の厚生をはかる。この目標として昭和七年度に排水幹水路掘鑿計画のうち十分の四を完成させる。同八年度は七分通りの完成、同九年度で全部完了させる。
(二)耕地の交換分合を促進させ、管理経営の合理化をはかる。
(三)自作農地の維持と創設につとめる。このため産業組合と連絡協調し、本村内の耕地を残らず村民の所有に帰する。また五反歩以上の自作農家を三〇戸創設する。因みに他町村民による荻島村内の所有耕地は七七町四反であるが、昭和十二年までの間に全部購入する。この実行方法としては
(1)耕地購入者に対しては産業組合が資金の融通にあたる。
(2)経済更生貯金を実施する。
(3)農家保険組合の維持あるいは創設を期する。
このほか未開発の山林原野は、耕地整理の施工とともに、事情の許す限り耕地に開拓し、宅地・畦・畔堤塘には、花卉・灌木類の栽培を行う。
次に農業経営組織の改善をはかり、田畑収益金の増大、ならびに生産費の切つめをはかるため
(1)農家一戸当り水田裏作緑肥二反歩以上栽培すること。
(2)全耕田に裏作として穀菽蔬菜の作付をなすこと。
(3)北後谷・西新井・長島では、田耕作反別の二割以上を慈姑(くわい)や蓮根の栽培にあてること。
(4)自給肥料の生産をはかるため、各自堆肥小屋を設けること。
(5)大豆粕・魚肥類は、必ず一度牛や豚などの飼料に用いた後、肥料に利用すること。
(6)金肥は反当り二円以下で耕作すること。
(7)一ヵ年間の勤労時間を三〇〇〇時間以上とすること。
そして五年後の全耕田に対する裏作は、水田耕作反別四三二町二反歩のうち、緑肥七六町六反・甘藷一二町九反、菜種四三町二反・大麦小麦一二九町六反・馬鈴薯一三町六反・慈姑蓮根六五町・豌豆二一町六反・蚕豆四三町二反・其他六五町とする。これによって水田反当り収益は金一五円の増額、畑反当り収益金一〇円の増額が期待できる。
また、家畜飼養の目標は、昭和七年度が牛馬一三四頭、豚七八頭、鶏二四五〇羽、同八年度が牛馬一四六頭、豚一三九頭、鶏四二五八羽、そして同十二年には、牛馬は二戸につき一頭のわりの一九六頭、豚が一戸に一頭のわりの三八三頭、鶏が一戸につき五〇羽のわりの一万一四九〇羽とする。
この計画実現のため、(1)壱町歩以上の耕作者は牛馬何れかを一頭飼育させる。(2)各農事改良組合単位に種豚場を設置し、優良種豚の配給をさせる。(3)各農事改良組合単位に種鶏場を設置し、種卵および初生雛の配給をさせる、となっている。
次に生産ならびに販売統制に関する事項として主要食糧農産物に対しては優良品種の普及統一・深耕の奨励・肥料の合理的施用・病虫害の予防と駆除・収穫調製方法の改善を挙げている。園芸農産物に関しては、蔬菜花卉園芸の栽培面積を拡張し、この生産改善をはかるとしている。副業生産物としては藁工品だけであるが、その生産は現在高を限度とし、品質の向上に努めるとしている。
販売統制では、米麦はすべての販売数量を産業組合の委託販売か農会の共同販売とする。園芸農産物に関しては、農会が審査を施行したうえ農事組合出荷部と連絡協調して各市場に共同出荷する。畜産物に関しては、鶏卵や鶏肉及び豚は、共同処理場を設け共同販売にもっていく。肥料や飼料ならびに農薬は、産業組合及び農事組合と連絡をたもち、すべて産業組合から購入する。生活必需品は、自給経済を原則とするが、購入の場合は、同じく産業組合から購入する、となっている。
さらに生活改善実行要項として、出産の際は、宮参り・出産見舞・節句などの行事を廃し、出生子の記念貯金として成年に達するまで信用組合に預金を続ける。入営・退営の際は、入営者に贈る餞別は部落単位で行い、個人の餞別ならびに旗などの贈物は廃止する。また帰郷者は土産物を持ってこない。婚礼の際は、奢侈を避け、持参の道具は身分相応とする。衣裳見せや近所に配る土産物は廃止する。葬儀に関しては、会葬者を制限し、なるべく禁酒する。香奠返しや引物などを廃止する。出棺時間を励行する。法要は近親者だけで質素に行う。祭典は敬神思想を失わない程度に質素を旨とする。中元歳暮の贈答はもちろん廃止する。講事に関しては、年令と階級別に統一し、一ヵ月置きに行い、従来の不自然な規約を改める、となっている。
このほか金融改善や負債整理に関しては、低利による信用組合に借替えすると共に、更生貯金を実施し、負債整理に充当するとして、それぞれ実施目標の年次計画がたてられていた。