ヤミ価格

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政府は戦時中から経済の統制を実施し、公定価格を定めるなどして物価の抑制に努めてきたが、戦後にいたっては、すでに正式なルートを通じては物資を入手するのが困難な状態となり、生活必需品の大部分は、ヤミ商人から公定価格の何倍にもわたる値段で取引された。この公定外の価格を通称〝ヤミ値〟と呼んだ。

 このヤミ価格は、二十一年六月頃で、米一升につき四〇円から六〇円、麦一升三五円、馬鈴薯一貫目二〇円から四〇円、小麦粉一貫目一〇〇円から一二〇円、大豆一升二五円、甘藷一貫目一五〇円であったが、七月に入るとさらに急騰し、埼玉県警察防犯課の調査によると、同月末の県内のヤミ価格は、第2表のごとくであった。これによると、米のヤミ値は公定価格の約三四倍、醤油が二〇倍、石鹸が約一七倍であり、ヤミ価格の単位はいずれも銭単位から円単位に上昇していた。これがさらに二十三年五月の埼玉新聞によると、公定の基準価格は米が八倍近くも引上げられて二〇円七八銭になったが、ヤミ値は同じく二十一年七月当時に比べると二倍以上にはね上がっていた(第3表参照)。

第2表 昭和21年7月末日埼玉県諸物価
品種 数量 公定価格 ヤミ価格
円 銭
1升 2.63 90
醤油 1升 6.00 120
牛肉 100匁 25.00 40
いわし 100匁 1.65 10
大根 1貫目 8.50 15
木炭 1俵 22.05 70
縫糸 1総 90 15
鍋アルミ 1個 47.80 60
同アルマイト 1個 39.60 50
下駄 1足 14.00 30
石鹸 1個 90 15
第3表 昭和23年5月埼玉県の諸物価
品種 数量 公定価格 ヤミ価格
円 銭
1升 20.79 190
押麦 1升 11.70 120
小麦粉 1貫目 39.00 300
味噌 1貫目 31.50 300
醤油 1升 19.30 180
1キロ 4.15 50
食用油 1升 43.20 650
清酒1級 1升 299.00 720
小豆 1キロ 11.51 150
大豆 1キロ 13.55 60
石鹸 1個 7.90 60

 当時の勤め人の賃金や俸給は、たとえば昭和二十二年八月現在の出羽中学校、同小学校職員の月俸を例にとると、出羽中学校長が九五〇円、同教諭が平均四六〇円、同使丁が二五〇円、出羽小学校長が九五〇円、同教諭が三三〇円から一三〇〇円、同助教諭が、ほとんど三〇〇円の俸給であったので、助教諭の場合月俸でヤミ米を買うと、わずか二升も買えなかったわけである。