困難な供出完納

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このような食糧増産、低米価供出の要請に対し、各町村はどのように応えただろうか。たとえば、桜井村の二十年度食糧状況調査(昭和二十一年四月一日現在)によると、同村の食糧状況は第4表の如くである。この調査報告の収穫高や保有高はきわめて内輪の書き上げであったようである。すなわち、埼玉県統計書によると桜井村の米の実収高は、糯米、粳米あわせて四五九一石であり、食糧状況調査とはかなりのひらきがみられるからである。しかし、この表でみるかぎり、米については実収高の八六・四%を供出することになり、種子用および飯米用よりなる自家保有量は一戸当り、一石六斗で、全量飯米にまわしても、一日一戸あたり四~五合にしかならない。こうした厳しい状況においこまれながらも、この年桜井村は供出を完遂したようで、同年五月、埼葛地方事務所長から、供米成績優良村として感謝状が贈呈されている。

第4表 昭和20年度桜井村食糧状況
種別 収穫高 供出高 保有高 1戸当保有高 供出農家
石 斗
3,960 2,128 560 1.6 350
100 86.4 13.6
1,965 1,155 810 2.3
100 58.8 41.2
生甘藷
10,800 3,000 7,800 40
100 27.8 72,2
馬鈴薯 53,000 30,000 23,000 66
100 56.6 43.4

 しかし、全国的にみると供出成績は悪く、未納のまま二十一年度に引き継がれる市町村が多かった。このため同年六月、埼玉県は米穀の代替として麦や馬鈴薯の早期供出を農家に懇請した。これによると、

  二十一年米穀年度上半期における食糧需給は、関係機関の御協力を得、辛うじて大過なく経過致したる処、米供出成績所期の成果を挙げ得ざりし為、七月以降の操作食糧皆無の苦境に立ち至りたるを以って、之が対策として馬鈴薯、麦類の早期供出に依り、この難関を突破せざるべからざる事態

であるとし、米穀一石に相当するものとして、生甘藷一四〇貫目、馬鈴薯一八〇貫目であると通知していた。

 さらに埼玉県は同月、「本食糧年度下半期の食糧需給は極度に逼迫し、連合国の好意による輸入食糧六六万トン(約四〇〇万石)を加ふるも、尚且四〇〇万石の不足を来し、之が先行(さきゆき)見透し困難の事情にある故、本年産麦類、藷類の供出に期待する処大なるものがある」として、収穫期の麦類の割当て高を示した。

 これによると、たとえば増林村の大麦収穫の見込高は一八六八石とみなし、この供出高を一二五〇石(六六・九%)とし、小麦の収穫見込高を六九六石とみて、この供出高を四〇〇石(五七・五%)と割当てている。ちなみに二十一年度埼玉県統計書によると、越谷市域の各町村の大麦・小麦の実収高は第5表に掲げたごとく、大方は収穫見込高をはるかに上廻った生産をあげていたので、供出はだいぶ緩和されたであろうと思われる。

 なお政府は、この二十一年度産の麦や馬鈴薯の買上げ代金は、金融緊急措置令の適用をはずした全額自由支払いの特典を与えていた。

 こうして、国民待望の秋の収穫を迎えたが、この年の産米高は埼玉県統計書によると、二十年度に比較して、いずれも二〇%から三〇%の増収であった。このうち南埼玉郡は二二%の増収を示し、豊作とはいえないまでもやや平年作であった。このため米の供米は比較的順調であった。

第5表 昭和21年度産大麦・小麦収穫見込・供出高・実収高
村名 大麦 実収高 小麦
収穫見込 供出高 収穫見込 供出高 実収高
桜井村 1,626 1,250 1,624 341 210 371
新方村 1,054 810 1,177 355 240 346
増林村 1,868 1,290 2,466 693 400 785
大袋村 998 690 1,563 250 140 318
荻島村 1,440 1,250 1,752 534 380 501
出羽村 414 250 710 152 80 167
蒲生村 486 340 447 200 110 336
川柳村 322 240 889 200 110 442
大相模村 542 330 636 484 300 524
越ヶ谷村 57 50 83 47 30 45
大沢町 350 240 332 174 90 174

(注) 実収高は埼玉県統計書による。