洪水の性格と特徴

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ところで、越谷地方の洪水の性格は、利根川決潰口に近い上流部の洪水に比べると、次のような特徴をもっている。すなわち、流出した古利根川の濁水は、一瞬にして人家を破壊し、田畑を洗いながら決潰口から放射状に拡散していった。その主流は庄内古川から中川沿いに南下し、九月十八日正午にはすでに大場川堤(桜堤)に達している。このような巨大な破壊力と速やかな洪水走時線(洪水の進行速度を示す線)の前進に対し、春日部南部から越谷地方にかけての洪水は、多くの地点からの堤防決潰による出水、あるいは堤防各所からの漏水、または単なる溢流水が浸水範囲を拡大していった。その間、洪水の一部は排水溝から排出されるものもあったが、千間堀(新方川)のように排水溝が満水逆流して、周辺からの洪水が到着する以前に溢流したものもあった。

 このように、各所からの各種の浸水が徐々に合して、広い洪水域を形成したところに、越谷地方の洪水型の第一の特色があった。したがって、洪水走時線も四方八方から、あたかも勝手気ままな方向をとって走り、その間隔(洪水進行速度を示す)も新方村の場合を除けば、全般に狭く、洪水速度はそう早いものではなかった。この点も、洪水域と洪水量が広くかつ大きかったわりには破壊力が小さい、という越谷地域の洪水型の第二の特色をかたちづくっている。また、東武線大袋駅東方の元荒川自然堤防、増林地区の千間堀などの微高を伴う地形をもった地域では、いちじるしく不連続な走時線を画き、出水時間、浸水深度、湛水日数などに微妙な地域差を与えることになった。これが第三の特色であった。

洪水の湛水期間