派出所の設置に関しては、たとえば二十五年十一月、大沢町高畑・鷺後の住民は、「最近の社会情勢の悪化に倶ない、押売・物貰い・悪質行商人・空巣等横行して」不安であるとして、治安のため鷺後・高畑地域に駐在所を設置するよう公安委員会に陳情書を出している。また二十五年六月、町民の要望をうけた越ヶ谷町長は、越ヶ谷駅前に派出所を設けるため、東武鉄道に対し、
当町は南埼玉郡南部地方の関門と言われ、貴社越ヶ谷駅を利用して交通するものは、日夕莫大なものがあります。然るに斯る交通枢要な地点越ヶ谷駅前には、現在警察官派出所の設置なく、これが設置の要を兼ねてから痛感いたして居りましたところ、偶々(たまたま)先般越ヶ谷駅に盗難事件があり、(中略)最近は殊にまた交通利用の犯罪が激増し、(下略)
その対策として、警察署員の常備配置が必要であり、駅前に派出所を設けたいと申入れている。この派出所敷地の予定地は越ヶ谷駅構内で、所要面積は約六坪、建物はコンクリート平屋建であり、工費は八万七〇〇〇円であるが、このうち三万円程度の補助を願いたいと、その協力方を要請した。
これに対し東武鉄道は、趣旨には賛成だが、同駅構内の一部は、すでに戦後の混乱に乗じ無断で店舗を仮設した露店商に占有されている。当社としても甚だ迷惑しており、越ヶ谷町で露店商を駅構内から取払うよう交渉するならば派出所建設の相談に応じましょう、と回答をよせた。そこで越ヶ谷町では、駅構内を占拠していた八軒の露店商を立退かせるよう運動した。この立退き一件に関しては、同年九月十八日付の埼玉新聞で次のごとく報道されている。
越ヶ谷町では駅前に交番を設けるため、構内露店商の立退きをかねてから迫っていたが、結局町を通じて十月一杯に建物を撤去、土地明渡しということになった。立退きを要求されている一人は、みんな終戦後やっている商売で、それぞれ高い税金を納めている、やめれば明日から暮せない、地代を払ってないのは手落ちだった、といっている。
ついで十月六日の同報道では、駅前露店の八軒は、十月四日から家屋の取こわしにかかり、十五日の期限内には完了予定と報じており、その立退き跡へ派出所が建設されたのはそれから間もないことであった。