進駐軍と選挙

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この間新方村の広報にも示されていたごとく、埼玉軍政部の選挙に対する力の入れようは、〝血の出るような〟あるいは〝涙の出るような〟と表現されたように熱心であった。ことに埼玉婦人有権者の低い投票率に対しては、軍政部司令官ライアン中佐は、「選挙に婦人の参加する事」と題し、次のごときメッセージをよせている。

  一九四七年四月五日の選挙では、百人の男子中八十一人が投票したのに、婦人では其百人中六十二人だけが其投票権を行使した事が分明した。婦人有権者の方の棄権率が高かったのが影響して、埼玉県全体の成績は有権者百人中七十一人のみが実際に其義務を果したといふ事になつた。

  これは情ない事態と申さればならぬ。数百年来日本の婦人は、選挙権からのけものにされてゐた。今や局面は一変し、自分の国の政治に積極的にはたらき、重要な役目を演ずる機会が与えられたのに、彼等は依然無関心で其権利を行使せぬのである。日常の必要物資を家族に供しようとする毎日の辛苦、配給の行列に伍する永い間の煩労、食料や衣料の極普通のものさへ不足している其間の忍耐、これらは何人にも切実に判つてゐる。あなた方のかかる重荷を軽くすることが充分に出来る選挙、それにあなた方が参加せぬ理由は、実に了解に苦まざるを得ぬのである。

  これには沢山の弁解があるでせう。あなた方は実に多忙である。あなた方は気苦労が多過ぎる位である。子供たちの面倒で一杯である等々、こういう事態は皆本当と思ふ。が然し正しい言訳ではありません。どういふ理由であろうと投票の義務を果さず、日本を住むによりよいところとする上に、尽すべき義務を果さずともいゝといふ事にはなりません。曾(かつ)てのあなた方は、男子の有権者をたよりとして、あなた方やお子方が安全で豊かな生活が出来るように、上に立つ政府に期待していました。其結果はどうです。日本を敗戦国に陥しいれ、あなた方の夫・兄弟・お子さんたちの夥(おびただ)しい生命を犠牲とした、あのさんたんたる戦争、あなた方は此の過ちを繰返していいのですか。