こうした生産振興とならんで農家の生活改善、公民館などの社会教育活動もこの時期活発におこなわれた。たとえば、増林村は、二十七年に公民館を設立し、雑誌『こうみん』を刊行し、農村の文化の向上につとめるとともに家事、保健、衛生などにおける生活の改善や文化活動を広く展開させていた。
以上のべてきた食糧増産を主体とした村づくりの中で農民はいきいきと農業にはげみ、明るい明日を夢みていたのである。ちなみに雑誌「こうみん」のなかから、農村振興に関する記事を拾ってみると、次のような感想文などがみられる
静かに現実を直視し、今後の農村経営の在り方を思考致す時に、公民館に課せられた大きな問題が山積されている事を痛感致すので御座います。その一つとして農業経営の合理化、生活改善、農村婦人の問題、青少年の問題、教育に関する諸問題等がとり上げられるので御座いますが、先づ以て農村経営の合理化を図り、経済の安定を確保することが先決問題であると思うのであります。従して今日に於ては、全ての事業は自治体の力で行わねばならないので、経済力が豊富でなかったなら充分な活動は出来ないので御座いまして、その充実を図る為にはなんと致しましても郷土産業の振興にあると思うのであります。その振興方策として、目下産業部として計画されて居るものは、土地改良事業の推進、各種共進会開催に依る品種の改良、技術の練磨、各種講習会開催に依る農業知識の普及、藁工品増産競技会開催に依る副業の奨励等でありますが、要は農家の皆さんに公民館を充分に利用せられ、自己の経営面に移して実行して戴く事なのであります。
自己の経営が恰も他人の力で開拓する様な他力本願の農業経営は過去の経営であって、これから先の経営はこの際真に農民が目醒めて自主的な力に依り、お互同志がしっかりと手を握り雄々しく立ち上がる事こそ肝要であると存じます。かくして農業経営が合理的に運営せられ、農家経済が豊富になれば、その他の諸問題はおのずから解決することと信じます。
おそらくこのときの農民の心情は、みずからの手で自主的に農村の振興をはかろうとする強い決意のもとで、諸問題に取組もうとしていたのは事実であろう。この背景には、「かつて謳歌された農村好況も今は夢の夢となりました。農村の経済事情も日増に切迫するのではないかと思われます」といった、農村不況への不安感や危機感もあったが、なによりも農業でしか生きることができない、また農業で生きようとする人びとの、生きるための真剣な村づくりが大きく志向されていたことはいなめない。
そして農村婦人もまた「年月を追って進歩する科学と機械化に対して、私達農村婦人も考慮し得ざるを得ないではないでしょうか。各農家の経済も私達婦人の働きによって左右されるのではないでしょうか。私達農村婦人が一体となって昔の好い所を科学的に考慮し、現在の機械化を利用すれば、よりよき農家経営が行なわれ、そしていくらかの時間を利用し、読書に、娯楽に取入れたならば、農村婦人の地位も向上し、特に婦人としての天職、すなわち子女の教育に専念し、立派な社会人を送り出し、よりよい村、又独立後の国家を建設出来るだろう。これは婦人の立場としても多大なる任務でもある」と、その自覚のほどを示していた。
さらに増林村のある農民は、村づくりの一環として行政諸機関の一括設置を立案するなど、積極的な行政参加の姿勢を示していた。これによると行政諸機関の敷地は、千間堀にそった増林橋と城之上橋の間、二ツ家橋をはさんだ(現在の東部清掃組合と市営グラウンド周辺)二町五反歩から三町歩の敷地で、このなかに役場・農協・小学校・中学校・消防所・貯水池・プール・公民館・総合グラウンド・小、中学校実習地・倉庫を一括して設ける。この経費はおよそ二五〇〇万円であるが、この資金は村民一人一日に一円の貯金をすると、人口五〇〇〇人として一年に一八〇万円、一五年に二七〇〇万円となる。
またタバコ節約寄金の方法では、一人一日バット一箱三〇円を節約、喫煙人口一五〇〇人として一年に一六二〇万円、一年半で二四三〇万円の資金ができる。このほか「一人一日一握りの米でもよし、鶏卵一箇でもよい。十年、十五年たつと驚く程の金額となる。要するに増林村の前途の発展のもとに計画されたものを〝ちりも積れば山となる〟の方式によって、忍耐強く着々と実行する事だ」といっている。この時点では村の発展や施設の充実は、すなわち村人の発展であり生活の充実であるとうけとられ、行政機関との溝はなかったようである。