市制施行の経過

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郡部の町村が、独立した一個の自治体を構成する市となるには、地方自治法第八条によると、

(1)人口五万以上を有すること

(2)当該普通地方公共団体の中心の市街地を形成している区域内に在る戸数が、全戸数の六割以上であること

(3)商工業その他の都市的業態に従事する者、及びその者と同一世帯に属する者の数が、全人口の六割以上であること

と規定されている。ところがこの第八条一項の人口五万以上を有することの条項が、昭和三十三年四月の国会で三万以上とする特例が可決された。ただしこの特例適用の期間は、同年九月三十日までで、それまでに申請書を出した町が対象とされた。このため全国では四〇に及ぶ町が一せいに市制施行の申請を提出し、新市ブームを捲きおこした。このうち埼玉県では、同年七月に上尾・与野の両町が市制を布いたのをはじめ、十一月には越谷と草加、二十四年四月には蕨が新しい市となった。

 この間越谷町が市制の施行に踏切ったのは、同年七月で、臨時町議会終了後、議員協議会を開き、市制の施行について協議した。その結果市制施行審議会が設置され、一般地区住民の意見を徴し、十一月三日を期して市制施行の目標とした。この目標を実現するため、まず各地区で説明会ならびに懇談会を開き一般住民の賛否を求めたが、このときの資料によると、

(1)「税の負担について」市町村税のかけ方については、今の法律で定められた課税をしているので、市になったからといって個人又は法人の所得が上昇しない限り特別に高くなるとは考えられない。

 固定資産税については、法律の定めるところにより、三ヵ年に一回、その時の経済環境に応じた価格により再評価することになっているので、今回市となったからといって変るものでない。

(2)「財政について」財政については、市町村長と議会の方針によって、その運営を定めて行くので、特別に変わることは考えられない。

(3)「農村部について」市街地は別として、市になると農村部がなおざりにされるのではないかと、心配されるかと思われるが、すでに新町建設十ヵ年の基本計画を樹立し、その中に更に五ヵ年の実施計画が建てられているので、その目的にむかって実施するので、市になったからといって別段変ることがなく心配にはならない。

として、市制に対する心配のないことを示し、ついで市となることの利点として

(1)町の政治や財政のやり方に対する自主性が確立され、町民の皆さんに清新発展の気分がわいてくるので、町を良くしようとする気持が高まってくる。

(2)工場の誘致等が対外的に有利となり、二、三男の対策、いわゆる次男坊の就職と独立経営、更に住宅の建築がふえてくる。

(3)商業や工業が発達し、取引関係が有利となる。

(4)福祉事務所が設置され、これに対する費用については、国から八割の補助がある。

(5)金のかかる仕事をやるとき、交付金・補助金等がふえてくることが期待されるので、仕事がやりよくなる。

(6)地方交付税については、市と町村との比率が違うので、ふえてくることが考えられる。

(7)町の利益になる事業を行う金が入用となったときの起債が、町村より先に受けられる。

(8)郵便・電報・電話の施設が、町や村の場合より優先的に便利になるようにして貰える。

として、説得にこれつとめた。この結果住民の大部分は市制に賛同したが、不満を示した住民も、市制施行後税金は増額しないこと、行政面で市街地偏重はさけることを付帯条件として賛同を示した。