最後に都市化進展下で、うちだされてきたあらたな合理的農業をめざす、いくつかの動きについてふれておきたい。
越谷市は三十八年に農業振興特別指導事業の指定をうけ、三十九年度に荻島地区の一七部落二四九戸を農業振興モデル地区に指定し、「荻島地区自立経営志向農家研究協議会」を結成、種々の調査、事業を実施した。
また、農業労働力の確保、および農業労働力の合理的調整をはかりつつ、他産業への就業または海外への移住を円滑にするために三十八年に越谷市農家労働力調整協議会条例を公布し、それにもとづき農家労働力調整協議会を設置し、農休日の設定、余剰農業労働力の合理的な配分等を実施してきた。この協議会は四十年に農家労働力対策協議会と生れかわり、より幅広い事業をおこなうに至っている。事業のおもなものをあげると以下のとおりである。農業労働力の実態調査、就業動向調査、農業後継者の実情調査、女子の嫁入希望調査、農家労働力対策連絡相談員の委嘱、農家労働力就業相談室の開設、田植援農隊組織先進地視察などである。
また都市化の中で一方で兼業化が進展したことにより農作物の肥培管理が粗放化し、また、他方で商業的農業の発展により作目構成が純化し、米+蔬菜あるいは米+養鶏(養豚)から、蔬菜や畜産を主にした複合経営や単一経営があらわれ、米部門の粗放化が顕在化してきた。こうした中で農作業の受委託(第21表)が進行している。たとえば、四十三年の桜井の調査では、全農家の六〇%が農作業請負いに出し、三%が受託農家となっている。こうした傾向のすすむ中で、四十三年五月に越谷市農業協同組合が「農業技術銀行」をとりいれることになった。この方式は、近代的な能率のたかい作業能力を具えたトラクター、バインダー、コンバインなどの機械所有者(当時の作業主体一八集団)が越谷市農業協同組合に預託し、農協がこれを兼業農家とか施設園芸農家などに貸しつける。これは、稲作、施設園芸、畜産などの単一経営の合理的発展をねらったものである。このように専門的な企業経営の育成をはかる方式としてこの「農業技術銀行」は注目されている。ちなみに現在の農作業実施主体は一八集団から二一集団へと増加している。
桜井地区41年 | 計 | 専業 | I兼 | Ⅱ兼 |
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戸 | 戸 | 戸 | 戸 | |
全農家 | 383 | 159 | 132 | 92 |
委託農家 | 230 | 76 | 82 | 72 |
受託農家 | 12 | 7 | 5 | |
非受委託農家 | 141 | 76 | 45 | 20 |
同割合 | ||||
全農家 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 |
委託農家 | 60.0 | 47.7 | 62.1 | 78.3 |
受託農家 | 3.1 | 4.4 | 3.8 | ― |
非受委託農家 | 36.8 | 47.8 | 34.1 | 21.7 |
さらに三十年代以降、農家の後継者問題がきわめて深刻になってきたことはすでにのべたが、四十五年三月時点では、農家戸数三六六二のうち農家のあととりは予定者を含めて九九三人であった。当時、この中に農業に将来をかける後継者が少なくとも三〇%はいると推定され、この人びとのうち、専業農家の高卒就農者から三五歳までの者を対象とした組織として、越谷市農業後継者研究会が発足した。同会の会則第一条によると「農業後継者の郷土愛に燃えた若い熱意を結集し、その組織的健全な実践力を活用して、農業生産の増強を推進し、経営の合理化をはかり、地域の農業振興に寄与するために必要な知識と生産技術を修得するとともに、自主的活動により、次代を担う近代的農業の基礎研究を行なうことを目的とする」とうたわれている。四十六年四月一日現在、この会員数は一七一人で、地区研究集会、視察研修など多面的な活動をおこなっている。このようにきびしい条件の中で、農業に未来をかけた新しいこころみがなされているといえる。