工場進出の新聞報道

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つぎにこの間の工業進出の具体的な状況の一端を新聞の報道によってみてみよう。

まず昭和三十一年七月の新聞報道によると、「越谷町では町内工場誘致に本腰を入れて運動を行っていたが、その第一号としてライター工場の誘致が本決りとなり、十日の県農委会で敷地の売渡しが内定した」として、東京浅草の広田ライター製造会社の進出を報じている。この工場は、従業員数約三〇〇名、オートメーションシステムによる本格的な工場であり、場所は蒲生変電所南側、敷地は二八七〇坪、総工費五二五三万円となっている。この広田工場の完成は、三十二年一月であり、三十五年六月には、月産六〇万個、さらに工場を拡張して月産一〇〇万個を目標とする好況を続けていた。この出荷先は、ほとんどがアメリカ・カナダ向けの輸出であった。

 また三十一年十二月の新聞では「越谷町では工場誘致第二回として、都内の皮革工場の誘致に成功、同町瓦曾根地区に五〇〇坪の工場を建設する」とあり、この頃から積極的な工場誘致につとめだしたことが知れる。さらに三十四年八月の新聞報道では、「越ヶ谷―蒲生間の東武沿線と四号国道ぞいを工業地帯として開発する。そこへ工場を誘致する計画だが、いまのところ誘致は順調に進んでいる。すでに二つの工場が操業を開始、四工場の完成も間近か、交渉中のものも五工場あるという盛況だ。これらが完成すれば大きな市の財源となる見通しだが、これらの工場敷地が緑地帯指定地区にぶつかるところもあって市ではいま、指定除外の申請を行っている」と、越谷市の工場誘致の積極性を報じていた。そして三十五年頃には好況の波に乗り、中小企業の業績も上昇を続けていた。たとえば三十五年八月には、蒲生の釣り竿工場や、大沢鷺後のステンレス調理セット工場を新聞がとりあげて、その好況ぶりを報道している。すなわち釣り竿に関しては「越谷市蒲生の釣り竿工場は、輸出向けリール付きの製造に追われている。仕向地はアメリカ、カナダ、西ドイツ、スエーデン、オランダ、ニュージーランドなど、三角形の竹を六本合わせた合板ザオ、新しいガラス繊維を使った新製品など、いずれもマス釣り用が多い。海外の釣りブームのあおりで注文に追われる景気のよさ。女工員もまじって一本一本手で仕上げる家内工業だけに、値段も最高千五百円どまり、月産一万本ぐらいだろう」といっている。

 また洋風調理セットに関しては〝売れ行きよい調理セット、越谷の工場で歳暮用にかかる〟との見出しで「越谷市大沢鷺後にあるステンレス工場は、輸出・内需両用の調理セットの生産に追われている。最近テレビの料理番組の影響で、バター、ピーター、ハムナイフ、ポテト、マフシヤー、あわだて器などの台所用品の売れゆきが急にふえてきた。種類は三十二種類ほどあるが、六本から十本がワンセット、八百円から千円位のもの、〝お中元用にだいぶ出ましたが、間に合わないと困るので、歳暮用の生産に、いまからかかっているのです〟と工場はなかなか鼻息が荒い」と記している。

 さらに弱電機工業に対しても、同年九月の報道では、〝忙しい弱電工業、注文もさばき切れぬ〟として、「テレビ、ラジオをはじめ、オーデイオ(レコード、演奏、拡声器)など、音を中心とした弱電工業は、受好者の増加とともにますます忙しくなっていく。越谷市の無線機器部品工場は、大手弱電工場からの注文が殺到し、需要に追いつけぬ有様である。ここでは、オーデイオのスイッチ類、ラジオ用ロータリスイッチ、インターホーン用の切替元スイッチ、キー、特殊アダプター」を製造しているとこれを報じていた。

 また、三十六年度における埼玉県下の工場進出の見通しや、受入れ側の悩みを新聞報道によってみると、次のごとくであり、当時の県内事情を端的に窮うことができる。

  去年県内には空前の工場誘致ブームがまき起った。四月以後県の窓口を通った大きなものだけで二百十五工場、三年前のざっと十倍という勢いだった。そして今年も、おそらくはこれを上回るのではないかという工場誘致をめぐる話あれこれを、関係者から聞いてみた。

  まず、目立つのは東部地方の開発がさらに進もうとしていること、今まで高崎線沿いを中心に新しい工場が集まってきたが、去年あたりから日光街道筋への進出がめざましい。例えば、草加市ではすでに百八十九の工場があり、近くできる所が六十一もある。また越谷市の工場数は三百を数え、ほかに五十四工場の予定がある。農村地帯のおもかげは急に薄れているわけだ。

  県もこの地方の開発には、今年から相当力を入れるらしい。草加・越谷両市を中心に造る東部第一工業用水道はそのカナメにあたる。これは三十六年度から三年間で完成する予定だが、すでにこれを目当てにした工場建設の申し込みが来ているという。この二月には池袋・越谷間の直通バス運転が始まるが、来年には地下鉄の北越谷乗り入れ、四号国道バイパスの実現なども期待されるところ。

  一方近ごろは、県内の地域別に大ざっぱな工場の色分けができるようになった。つまり熊谷市より南の高崎線沿いには、機械、金属、鉄鋼関係が圧倒的に多く、熊谷・深谷付近には建設材料の工場が目立つ。それに草加・越谷の化学関係が加わろうとしている。こうした傾向は、今後もしだいに強くなるらしい。新しく県内に来る工場は、大てい大企業のヒモつきだ。有名大会社の下請けか、そのまた下請け、というのが多い。そのあおりで、前から県内にある中小企業が、一番下の下請けになる例がある。今年はこんな傾向も進むかも知れない。工場がふえるという景気のよい話の裏には、悩みも多い。どれもちょっとやそっとでは解決しそうにないが、そのいくつかを並べてみよう。

  筆頭は土地の値段が高いこと、今さらの話ではないが、県内地方ではますますひどい。道路や下水道が第二の困りもの、中山道の支通はもう限界に来ているし、前から話のある武蔵縦貫道路はいつ実現するのかわからない。入間郡などには丈夫な橋がないので、工場を誘致できない所がある。また大ていの工場は、高い金をかけて自分で浄化装置を造って排水している。電話がまたなかなかひけない。工場は建てたが、電話がはいらないという例もある。一方では、工場が騒音や臭気をまき散らす公害が、住民の苦情を起こしてている。これは大工場よりも、むしろ小さな工場に多い。工場の進出は、緑地帯にもあって、かんじんの緑が少なくなっている。このほか、人手不足が目立つ。〝中学卒がさっぱり見つからない〟という事業所が多い。そのシワ寄せは、商店や前からある工場に及んでいる。