附不動尊江雨乞願事
附四ヶ村水論之事
附懸渡井堀揚用水引入一条
附畑作御見分之事
旱魃難渋次第、右は正二月頃ゟ天気照続、苗代抔近
年ニ覚無之からひニ相成、段〻引続三月四月頃田う
ないも湿り相待候故手おくれニ相成、仲〻以壱日ニ
壱畝位も相成様、且又万のふも保兼候様相成故無拠
唐くわニて所〻借集メ、家内不残罷出田うない漸〻
田植前迄ニ相仕舞、扨又右様之儀故早速からひニ相
成村方壱畝も不残旱揚ヶ候処、田植時節用水不足ニ
て汲水も無之仕合、段〻見合候得共無拠五月節句前
ニ早稲くわい少〻植付、然ル共節句過ゟ下手耕地は
所〻ゟ汲上、堂面耕地も寺領一統ニ葛西逆水汲上、
谷古田用水通り同断四ヶ村用水ゟ引付之分は仲〻以
汲届ヶ相成兼、壱日之田植も三四日位ツゝ相懸り、
其内植付候分も又〻育水等を汲上候故、五月一日ゟ
初メ同月廿五六日卅日迄も相懸り、勿論土用時節は
六月廿日ニ相当り故、最早田植仕舞之頃ニ相成候て
ハ苗ニほし出くせ致候様成行、無拠無仕付ニ致候様
成行候、此近辺越ヶ谷領岩槻領新方領村〻ハ多分無
仕付ニて歎敷事共ニ御座候、其故ハ近年元荒川之水
上大崎村拾六間之関枠并芝山之底圦弐ヶ所共御普請
大上夫ニ出来、一滴も漏水無之候得は一向水元無之、
末田溜井ニ有之故右組合用水路ニハ呑水も無自由ニ
て、苗代之育のみ井戸抔掘、又ははこび水ニて昼夜
相懸り居、且又無拠畑ニ稈を植候様ニ地拵いたし、
其出作壱弐分通りも植付候も有之候、彼是いたし候
内土用十日前ニ相成六月十日之頃物之ためしニ田植
致し候も少〻実のり候得共、兎角物事其年柄ニて末
〻之心得ニハ相成間敷、其故は五十壱ヶ年已前明和
八卯年旱魃ニハ田植中ゟ照続ニて水汲不仕、何れニ
も田ニ肥を入早く壱番草耕仕手を廻しかきませ候分
ハ相応ニ出来、又育水計汲揚壱番草耕致兼候分は、
曾て笹立ニ相成実法不申由、此節も格外之旱魃ニて
壱番草も控候由、殊ニ其頃ハ水車不足之時節ニて汲
水不行届、左も可有之事ニ承り伝有之、且又当巳年
旱魃は正月ゟ照続候儀故土怔替り土さら〳〵と致し、
地せい至て強く田ニ肥入候分ハ秋ニ相成、かれ穂多
分出来一向穀実無之、且育水汲揚行届キ候分ハ五七
俵取ニ御座候、田草も漸〻壱度取又は取不申候共、
草種子も旱枯候哉一向生立不申、又は汲水故ニて稲
出来上り候故、是又草も生茂り不申、勿論育旁〻故
草耕も乍存出来兼、上手耕地至て出来方不同ニて三
合毛ゟ弐升毛位迄、小前も右ニ順し不同有之、手都
合宜敷田場計作候も有之、又ハ悪敷場所計作候人も
有之、格別之相違ニ御座候
不動尊江雨乞願事
右之通田植初ゟ汲水致、節角汲揚候水も三四日なら
てハ保兼、依て所〻ほう〳〵ニて雨乞有之、且又当
不動尊先年も度〻雨乞之其しるし有之、既ニ寛政六
寅年夏旱魃之節近在数ヶ村ゟ相願、一七日之祈念且
願村ゟ朝暮参詣夥敷、任其例ニ当巳年之儀は当村計
之願ニて五月下旬雨乞被成下候積り、依て御仕度料
ニして初ハ金五両之奉納、中日ニ御見舞としてそふ
めん壱箱金拾両奉納致し候得共、仲〻以雨祈之仕度
物入殊外ていねいニて入用多相懸り候様子、大聖寺
ニても余程足金可有之躰ニ御座候、且村方割合ハ小
前廿四日ゟ五拾文、百文、弐朱、壱分弐朱位夫〻取
集メ、其余は村高割ニ致候、後日心得之ため書記置
候、尤一七日雨乞中雨ふり不申翌日ニ相成大雨ニて
残多事共ニ御座候、勿論雨祈中村方ゟ拾人計ツゝ御
堂ニ相詰居、不動之真言となへ罷有、朝暮村方参詣
仕候
四ヶ村水論之事
右は当旱魃ニ付五月下旬ニ相成、村〻田植も未タ無
仕付多、八条領伊勢野村、大瀬村其外五六ヶ村は八
条用水場末ニて、上郷強く汲水いたし候得は仲〻以
下筋へ一向不行届、誠ニ一滴も汲水無之、且又四ヶ
村組合用水之儀瓦曾根村を初、第一用水路逆ニ相当
り水懸引平年抔も末田之余水足合ニ致し来候処、当
年之儀ハ未田用水無之候故右村柳田耕地、又右衛門
耕地引続、登戸村新田分蒲生村西耕地多分無仕付有
之、西方村も稲荷後とふか森耕地不行届、其外谷古
田領葛西淵江領、八条領中郷通は荒増汲水ニて植付
相済候得共、御懸り御普請御役人申様御差略を以松
伏溜井用水圦三日三夜不残戸下ヶ、瓦曾根溜井葛西
圦、谷古田圦是又同断戸下ヶ、八条用水下森川様御
知行七八ヶ村并其後ハ四ヶ村用水路江水引入候積り
被仰渡、八条井筋上郷分水口無築ニ仕厳敷御見廻り
被成候ニ付、溜井間近く五合程之水丈ニ相成候得は、
瓦曾根村ニて四ヶ村用水土堰弐ヶ所致し、右村壱村
江用水引付候積り字大田切石橋手前江大釜ニてとふ
からしをせんし、にへゆを仕懸水鉄炮竹鑓り抔用意
致し、右村方ハ不及申越ヶ谷宿加勢いたし数百人往
還江出張、右用水組合村方ゟ堰切払罷越候ハゝ大喧
嘩ニも可致躰、然ル処蒲生登戸憤り村中不残寄鐘打
ならし石炭わら炭其外竹やり仕度致、九ツ半時場所
へ出向折から大南風ニて石炭わら炭なけ懸立合候処、
蒲生方薄手疵請候者壱両人出来候故、一先引退申候
処、右取沙汰西方村江も早速相聞へ有之故、西方村
中不残竹やり其外持出し騒動致候故、大聖寺ゟも是
（制）
を製し一躰西方村之儀ハ大届成雨乞心願有之処、右
躰之儀ニ加り候てハ雨乞之妨ニ相成事故達て止り候
様院代申出候得共、村方大勢之事故不得止事右場所
ニ追〻掛付、蒲生登戸西方一同押懸り堰切破可申と
存候処、葛西領宝木塚村四郎兵衛殿其外三四人扱ニ
立入和談為致度、双方へ異見差加任其意双方引訳ヶ、
勿論扱之趣意ハ当日暮方ゟ右堰半分取払、翌朝不残
取払候筈、且又翌朝ニ相成候得は最早葛西圦戸開払
ニ可相成日限ニ御座候得共、扱之趣意ニて圦戸弐本
下ヶ置候積り、一躰溜井俄ニ水出来候故之儀ニて及
争論候得共、仲〻以溜井五合程之水丈ニてハ瓦曾根
村ニて土堰致候ても、根耕地田壱弐枚水しめり上り
候迄ニて、殊ニ時刻も四五時之間ニて一向足合ニ不
相成儀、然ルニ御懸り御普請御役方江も右始末故早
速ゟ蒲生登戸西方村役人共御廻村先相尋御訴ニ罷出
越、暮方御懸り様方瓦曾根村御止宿ニ相成候処、右
取扱之逸〻扱人共ゟ申立候処、御懸り御役人様方被
仰聞候ハ、日光道中往来ニて御用懸り御役人諸方御
通行有之候処、右躰騒動及候儀甚以御腹立被成候ニ
付、双方懸合方不行届儀ゟ事起り候段、夫〻文面相
認内済証文御懸り方へ差出し一件落着仕、其後論所
場所ニおいて右四ヶ村手打相済申候
懸渡井堀揚用水引入一条
右旱越故田植後育汲水等甚以不行届、殊ニ四ヶ村用
水路ニ掛渡井有之、一躰溜井渇水ニて其上瓦曾根水
上ニて強く水汲揚候得は、渡井敷干揚り一滴も流行
無之、依て任先例渡井脇堀割候得共、片側ニ往還石
橋有之、幅漸〻堀敷ニ弐尺位且又渡井敷土台有之候
得は深くも出来兼、漸〻敷板掛之分量のみニて五寸
位之床下ヶニ不相当ら様子、然ルニ右場所へ土抔落
込流行之妨致、依之下三ヶ村相談之上、右懸渡井堀
揚ニ致度懸合候得共、御普請所之儀故地元村方へ懸
合之上御支配大原四郎右衛門様江夫〻願書を以六月
廿五日願出候処、則御窺之上ニて御出役被成下、願
三ヶ村瓦曾根村役人并組合拾九ヶ村惣代之者立合、
場所御見届願之趣相違無之ニ付、右懸渡井水盛寸尺
御改有之上ニて、懸渡井堀揚御材木ハ地元村役人宅
江預ヶ置候、且用水引入相済候ハゝ元形之通三ヶ村
ニて伏込候筈大原四郎右衛門様御出役江左之通一札
差出ス
差上申一札之事
字堂面悪水堀江懸渡
字四ヶ村用水
一掛渡井長六間
内法高弐尺五寸横五尺壱ヶ所
右は武州埼玉郡瓦曾根村地先ニて、外三ヶ村用水組
合一式御入用御普請所ニ御座候処、当年は春中ゟ照
続悉渇水仕候得共、取入口ニてヶ成ニ水有之候処、
右掛渡井用水路ゟ地高ニて堰ニ相成水元ニ有之、用
水引取方懸渡井下三ヶ村必至と差支ニ付、右渡井堀
揚、尤当時用水引取相済次第私共三ヶ村ニて諸色人
足一式入用差出し、元形之通仕立可申候間御見分被
下、渡井堀揚候様被仰付別紙を以奉願上候処、今般
御出役右掛渡井其外用水路水元等迄御見分之上差障
等之義も可有之哉と御糺御座候処、組合四ヶ村限り
之用水路ニ付、外村方何ニても聊差障之筋無御座候
段申上、願之通御聞済被成下則今日堀揚出来用水引
取方も宜敷御座候、難有仕合奉存候、然ル上は右掛
渡井諸色地元瓦曾根江夫丈ニ手当仕囲置、用水取入
相済次第前書申立候通聊無相違相仕立御届申上御見
分請可申旨、且用水引取方も宜敷相成候上は昼夜情
を尽、可成丈養水行届候様可仕旨情〻被仰渡之趣承
知仕奉畏候、依之私共一同御請印形差上申処仍如件
武州埼玉郡登戸村
文政四巳年六月 百姓代 冨右衛門
年寄 源左衛門
名主 八右衛門
西方村
百姓代 七郎兵衛
年寄 治郎左衛門
名主 吉 蔵
出府ニ付印形無御座候
蒲生村
百姓代 依左衛門
年寄 幸右衛門
名主 仁 兵 衛
大原四郎右衛門様
御手代 稲岡茂作殿
前書之通相違無御座候、用水組合ニ付私共一同立合
承知仕奥書を以印形差上申候以上
同郡同領瓦曾根村
名主中村茂藤太代兼
年寄 孫左衛門
百姓代 甚 六
助合拾九ヶ村惣代
同郡麦塚村
触次 吉 兵 衛
差上申一札之事
堂面悪水堀掛渡
字四ヶ村用水
一掛渡井長六間
内法高弐尺五寸横五尺御普請所壱ヶ所
此水盛
往来石橋北角上脇ゟ用水東縁槐之木迄、木印之処江
見通し、水縄ゟ渡井中程敷板上ふち迄、四尺四寸弐
分下り
用水路東縁樫印之所水縄ゟ渡井水上、取入口敷板上
ふち迄、四尺壱寸壱分下り
右は此度渇水ニ付用水引取方差支候ニ付、瓦曾根村
地先ニ有之懸渡井堀揚、当用水取入相済次第元形之
通り仕立可申旨御願申上御見分被下、私共為立合水
盛被成下見届ヶ候処、書面之通り相違無御座候、然
ル上は右水盛尺寸を以元形之通聊無相違仕立可申候、
依之一同印形差上申処仍如件
文政四巳年六月廿八日
武州埼玉郡西方村
名主代兼
年寄 吉左衛門
百姓代 七郎兵衛
同郡蒲生村
名主代兼
年寄 吉左衛門
百姓代 吉 次 郎
同郡登戸村
名主 八右衛門
年寄 源 治 郎
百姓代 留右衛門
大原四郎右衛門様
御手代 稲岡茂作殿
前書之通私共立合見届相違無御座候、奥書を以印形
差上申候以上
同郡瓦曾根村
名主代兼
年寄 孫左衛門
百姓代 甚 六
助合拾九ヶ村惣代
同州同郡麦塚村
触次 吉 兵 衛
右之通懸渡井堀揚候処流行障なく汲水行届キ出情罷
有候、八月之節ニ相成候頃ゟ節〻湿り有之候といへ
共、最早稲のためにと相成不申、返て出ほくれ致し
虫付ニ相成、肥入候分は枯穂多穀実一向無之、勿論
仕付以前より三四度大雨有之候得共、右躰旱魃之折
から漸〻一両日之しのぎニて又〻元形の通旱魃ニ相
成、思ヘハ稲枯切ニも不相成ものニ御座候、猶又用
水引入相済懸渡井伏込可申筈ニ候処、御年貢其外麦
作蒔入旁〻以手廻り兼、其上度〻大雨有之候得は水
深ニて伏込相成兼、来午春伏込之積り申延致置候、
然ルに当巳年米怔之儀畑ニて出来候米之様子ニて一
向ねはり無之、飯ニいたし殊外風味違、江戸向ニて
も越ヶ谷米ト申候ても承知不致候、且又御検見之次
第当時見取中之儀故、右一件書物ニ書記置候、小作
方之儀も田方出来不出来殊外不同有之故、検見内見
之節見届候姿を以夫〻地主相対ニて勘弁いたし、村
一躰之引方ニハ不相成候事
畑作御見分之事
右畑作之儀は麦作出来方近年ニ無之穀実取上候得共、
作入大豆之儀は仲〻以生立候様子無之候得共、百姓
丹誠を以炭多分上夫ニしめし蒔込候処、漸〻生立候
も有之、又は生兼候も有之候得共、誠ニ生立候儘ニ
て一向丈も延兼、彼是致候内早大豆抔花咲出三さや
五さや宛実法候躰ニ成行候得共、晩大豆之儀八月之
節しめり有之、俄ニ肥出候て丈延上り弐度花咲若返
り候て、不残虫喰大豆ニて実は一向無御座候、其外
右之様子ニ准シ依て八月ニ相成御支配様ゟ御見分有
之、左之通り小前帳
当巳畑方蒔附反別仕訳書
武州埼玉郡西方村
高千三百四拾九石四斗壱升三合
畑高弐百弐拾四石六斗壱合
此反別弐拾九町八反七畝四歩
内高八石五斗八升九合
壱町四反四畝廿壱歩
土取真菰刈捨場所分
畑高弐百拾六石壱升弐合
残畑反別弐拾八町四反弐畝拾三歩
内
一蒔反別弐拾三町六反五畝拾四歩
内弐拾弐町五畝四歩 夏作之分
大豆去辰年取実八斗五升ゟ壱石迄
小豆同断六斗五升ゟ九斗迄
内弐拾壱町壱反五畝弐歩 大痛
七反五畝壱歩 中痛
壱反五畝壱歩 小痛
秋作之分
壱町六反拾歩 綿 同断反ニ拾五匁迄
芋 同断反ニ壱石五斗ゟ八斗迄
粟 同断反ニ壱石ゟ壱斗迄
内壱町弐畝四歩 大痛
三反五畝五歩 中痛
弐反三畝壱歩 小痛
外反別四町七反六畝廿九歩 屋敷之分
高六石三斗五升七合
内畑高四斗四升弐合 亥高入
新畑反別壱反三畝廿四歩
内
一蒔附反別壱反三畝廿四歩 夏作之分大豆 大痛
畑高弐斗三升八合 丑高入
新田反別三畝拾弐歩
一蒔附反別三畝拾弐歩 夏作之分大豆
内弐畝七歩 大痛
弐拾弐歩 中痛
高壱斗四升壱合 午高入
新畑反別四畝廿壱歩
内
一蒔附反別四畝廿壱歩 荏畑之分 大痛
右は当村畑方夏秋作蒔附反別之内、損毛之分書面之
通相違無御座候以上
巳八月 西方村
名主 利左衛門
年寄 喜左衛門
百姓代 与左衛門
大原四郎右衛門様
川崎平右衛門様 御立会
御役所
御見分出役大原様御手附小林金之助様
右之通夏秋作は一向無之候得共、御見分之上永引も
可有之と存候処、其後引方之御沙汰無之候、然ル共
小作入附之儀段〻小前ゟ村役人江申出候ニ付、去辰
春麦作萌腐之節引方も無之、其上当巳年旱魃ニ付小
作入附金銭屋敷畑之外は四分引之積り、村方一統申
渡し遣候