正徳四午年

新金銀吹替幷通用之法、定書割合次第両替之事都合四通御触書

原本の該当ページを見る

  ○ 正徳四午年

   (朱書)

  「新金銀吹替幷通用之法、定書割合次第両替之事

   都合四通御触書」

    覚   新金銀吹替之事触書第一

 慶長年中定置れ候金銀の法、元禄年中に至て始て其

 品を改められ候よりこのかた、諸物の価も年〻に高

 直になり来り世の難儀に及ひ候によりて、前御代御

 治世の始より金銀の品慶長の法の如くになし返さる

 べきよしの御本意に候といへ共、近世以来諸国山〻

 より出来り候金銀の数古来のごとくに無之候を以て、

 たやすく其御沙汰に及はれす候処に、就中元禄の金

 は打連損し候につきて其通用難儀候由を 聞召及は

 れまつ其御沙汰有之候、其後に至りて宝永の銀も其

 通用難渋し候事御聴に達し、其故尋ねきハめられ候

 に及ひ、世に通行し候所の銀次第に其品宜しからさ

 る物とも出来り候事相しれ、早速に銀吹出し候事を

 停止せられ、其事の由来を御糺明之上其御沙汰ある

 へき御旨に候処に、既御不例日〻に重らせられ候に

 つきて、去〻年辰十月十一日に御書付を以思召のほ

 とを被仰付候、これによりて当御代に至り候よりこ

 のかた世の人の申沙汰し候事共をも尋ねきハめられ、

 各僉儀の上を以て金銀品慶長の法のことくになし返

 さるへき事に議定せられ候、其通用の法引替の定等

 の事ハつまひらかに別紙に相見候ことくに候、今度

 此御沙汰においてハ前御代の御旨によられ天下後代

 迄のためを以ての御事ニ候上ハ、貴賤貧富を選ばす

 皆〻御定の旨を相守り其切の終るへき所をよろしく

 覚悟あるへき事に候、もし一身の利潤をはかり候た

 めに何事によらす其通用相滞候事共仕り出し候にお

 ゐてハ 前御代の御旨 当御代の御沙汰を違犯候の

 みにあらす天下後代迄の罪人たるへきものに候ヘハ、

 急度其罪を糺され候て厳科に行はるへき事に候、是

 又其旨を相心得べき者也

  正徳四年甲午五月十五日

    金銀通用之法定書 第二

 今度被仰付候金銀之品、慶長御定のことくになし返

 され候事ハ、去〻年辰十月十一日 前御代被仰出候

 御旨により天下後代迄のために御沙汰候上ハ 公儀

 御費用の事等は論するにたらす候、雖然近世以来諸

 国山〻より出来り候所の金銀むかしのことくに無之

 候を以て、元禄以来の金銀等こと/\く是皆相改り

 候迄は多くの年月を経べき事に候、寔を以て其切終

 り候迄の間金銀通用の法を定められ候条〻

一今度被仰出候新金新銀幷慶長以来元禄七年迄の古金

 銀ハいふに及ばす、元禄宝永の金銀皆〻これを通用

 すへし、但シ元禄宝永等の金銀の事公儀の御定にお

 いてハ慶長の法のことくに金壱両を以銀六拾匁に相

 当せられ候といふとも、内〻においてハ歩金寄銀等

 をくはへ候て通用し来り候事ハ、其品〻の高下同し

 からさる故に候、然る上ハこれより後も元禄以来品

 〻の金銀を以て慶長の法の金銀と其品同しく通用之

 事ハ有るへからす候、これによりて慶長以来只今通

 用の金銀にいたるまて、各〻其品の高下によりて割

 合の次第を定められ、いつれの金銀にても有合候に

 随いて皆〻通用し候法を定められ候、其割合の次第

 ハ別紙に相見之候事

一何事によらす物の価を定め候事ハ只今通用し候金積

 り銀積りを以て其直段をたて候て其金銀の事ハ有合

 候に随ひ、いつれの金銀にても割合の定を以て新古

 の選ひなく通用すへき事

  附借金借銀の事是又此例に准すへき事

一御料所御年貢の金銀納を始め、すべて上納の金銀等

 是又只今通用候金積り銀積りを以て勘定し、其金銀

 の事ハ有合候に随ひいつれにても割合の定を以て通

用あるへし 公儀御用の代金代銀として被下候所も

割合の定を以ていつれの金銀にても用ひらるべく候、

世上において上下通用の法皆〻此例に准すべき事

一大判の事は元禄年中に改められ候所も、慶長の大判

 に引くらへ候に其品大きに下り候にもあらす、打連

 損し候事もなく候によりて、宝永七年只今通用の金

 銭被仰付候時も此沙汰には及はれす候、今度におい

 ても小判壱分判等相改り候以後に御沙汰あるへく候、

 其間ハ 公儀より被下候所も献上の所も其外私に用

 ひ候所も皆〻只今迄用ひ来り候大判を以て通用ある

 べき事

一公儀江献上之銀幷被下候銀の事、是又只今通用の銀

 積りを用ひ、其銀の事ハ只今為用の銀積りを用ひ、

 其銀の事ハ只今迄用ひ来り候銀にても又ハ割合の定

 を以て今度被仰付候新銀を用ひ候とも、新古の選ひ

 なく通用あるへし、一枚二枚の馬代等に至ても是に

 可准事

一今度被 仰付候新銀を以て元禄以来品〻の金銀ニ引

 替候事ハ、年を経べき事に候によりて、諸国在〻所

 〻の手寄次第に連〻に引替候ために、江戸京大坂ケ

 三ヶ所において引替所を定置れ、引替候ものと相対

 し割合の定のことく其事の煩なく引替へく候由を相

 定められ候事

  附もし用事に就て今度の新金銀を以て只今迄通用

  候金銀ニ引替たきもの候においてハ、是又割合の

  定を以て其届次第ニ引替候様ニ相定られ候事

一今度被仰付候金銀の事ハ慶長年中より元禄七年迄の

 間通用し候古金古銀に其品相同しく候上は、元禄七

 年以前の古金銀ハ引替候に及はす、今度の新金銀と

 相ましえて永く通用有へき事、右条〻今度被仰付候

 金銀世にあまねく流布し候まての間は公私貴賤共に

 よろ敷遵行あるへき者也

  正徳四年甲午五月十五日

    新古金銀割合次第 第三

一慶長の古金は只今通用の金に格割増、右慶長の古金

 世上において 壱両には只今通用の金弐両を用ゆへし、

 往古金と称す

 今度被仰付候新金はすなはち此古金と其品同しく候

 故に其割増も又是に同し

  附只今通用の金と元禄の金とハ其品に高下ありと

  いへとも、其形の大小あるを以て此二品は其差別

  なく一様に用ゆへし、但し只今通用の金と元禄金

  とを引替候例、元禄金百両につきて歩金として只

  今通用の金弐両弐分ツゝを増し加へ来り候処に、

  もし其法を改められ候て元禄金を所持し候者のた

  めに不可然候によりて、自今以後も引替所におい

  て此二品の金を引替候には歩金の法只今迄の例の

  ことくなるへき由を定められ候

一慶長の古銀は只今通用の銀に拾割増、右慶長の古銀

 世上において 壱貫には只今迄通用の銀弐貫目を用ゆべ

 往古銀と称す

 し、今度 被仰付候新銀は則此古銀と其品同しく候

 故に其割増も又是に同し

  附只今通用の銀凡宝永七年以来出来ル所の所 世上

                       にお

  いて中銀三宝 其差別なく一様に用ゆへし

  四宝等と称す

一元禄の銀は只今通用の銀に六割増、右元禄銀 世上にお

                      いて元字

 銀と 壱貫目にハ只今通用の銀壱貫六百目を用ゆへし

 称す

一宝永始の銀は只今通用の銀に三割増、右宝永始の銀

 世上において

 宝字銀と称す壱貫目にハ只今通用の銀壱三百目を用ゆ

 へし、此割合次第ハ別紙の定書に相見え候ことくに

 今度被 仰付候、新金新銀世にあまねく流布し候迄

 の間ハ新古銀を選はす皆〻通用あるへきために定め

 よる所に候、就中只今通用の銀の事ハ慶長の古銀に

 引くらべ候に、其品大きに同しからす候へは其品に

 応し候て割増を定められ候て 公儀御費用にも及は

 すして、慶長御定の品のことくになし返さるへき事

 に候へ共、世のためにおいてハ其損失あるべき事に

 候を以て、わつかに拾割増の法に定められ候て其不

 足の所においてハ公儀御費用を以て償はれ候所にて

 候、是則 前御代の旨によられ天下後代迄のために

御沙汰有之事に候条、よろしく其旨を相心得候て此

定を相守るべき者也

  正徳四年甲午五月十五日

    諸国商人両替候輩に可申渡事

 元禄宝永以来金銀の品改り候、度〻に其通用相滞、

 ついには世の難儀に至り候事両替し候商人等みたり

 に金銀の品を高下し、過分の利倍を求め候より事起

 るの由に候、今度金銀の品皆〻慶長の古法のことく

 になし返され候といへとも、元禄以 来 の 金 銀 こ と

 /\く皆相改り候迄は其年数久しかるへきによりて、

 其間金銀通用割増等の法を定められ候、凡金銀銭等

 の両替を以て家業とし候上は其時に応し候て相当の

 相場ハあるへき事勿論に候、若シこれより後に至り

 て両替の上につきて世の金銀通用の事相さまたけ候

 事仕り出し候者有之においてハ、其者をは急度厳科

 に行はれ、其由を以て訴出候者においてハ彼罪犯の

 者家財を以て、よろしく褒美の御沙汰あるへく候者

 也

  午五月十五日

    差上ケ申一札之事

 今度金銀吹替之儀ニ付被仰出候四通之御書付之趣奉

 拝見奉畏候、村中惣百姓ハ不及申両替屋幷地借水呑

 等迄委細読聞かせ、向後右之趣堅相守候様ニ可致旨

 被仰渡奉畏候、為其一札差上申候仍て如件

  正徳四年甲午五月

 右帳面八条領壱帳ニて名主年寄不残致判形指上候、

  午五月廿九日