山 寛政元酉年
(朱書)
「造酒株取極り幷株譲渡シは格別、貸借造酒仕間
敷旨御触」
諸国造酒米高之儀、元禄十丑年之造米高を定規とし
て正徳の頃は右高之三分一或ハ五分一と相触、宝暦
之度は右元禄之高迄勝手次第造酒可致旨相触候処、
近来米穀払底ニ付天明六午年以来減石相触、此節ハ
前〻ゟ右午年以前迄造来ル高之三分一造酒可致旨去
ル未年以来相触候処ニ有之処、此度諸国届高相揃候
上ニて右三分一高元禄之造米高と見競候処、元禄之
高ゟ当時迄造候三分一之高抜群相増候、然ル上は諸
国一統差支之節は有之間敷事候間、追て及沙汰候迄
ハ弥去ル午年以前迄造来ル高之三分一造たるへし、
改方は先達て相触候通り相心得隠造り増造り等致間
敷候、休酒屋之分是又造酒不相成候、畢竟造酒米多
く潰候てハ米直段高直ニ成、末〻のもの難儀之筋ニ
付、前〻ゟ分量極り有之事ニ候間其旨を可存候
一諸国酒屋之内株高不相分も多く有之趣ニ付、以来ハ
諸国一統同株高と申名目相止メ、此度御勘定所江相
届ケ候造酒屋之分、永〻之株ニ成候事ニて其株壱軒
前を其儘譲渡候儀は相対次第たるへし、壱軒を何軒
ニも譲渡儀は不相成候
一只今迄借株ニて造酒致し候分も有之由相聞候、右ハ
譲請候共又は元株主方江差返し候共相対次第可致候、
若無拠子細有之候ハゝ御料は其所之奉行御代官私領
ハ領主地頭江其訳申立差図可請候、以来新ニ借貸之
儀ハ決て致間敷候、尤此度相届候酒屋之内譲渡も不
致、以来相続難成潰株ニ成候儀有之節は御料私領共
其筋江申立、聞届ケ之上右明株を引請新ニ造酒始候
儀は可相成事ニ候
右之趣堅可相守候、若違犯之輩有之おいてハ可為曲
事候、右之通御料は御代官御預所私領は領主地頭ゟ
不洩様可触知もの也
右之趣可被相触以上
右之被仰渡之趣急度相守可申候、廻状早〻順達留り
村ゟ可相返候以上
酉八月 野口辰之助役所