つい先年まで農家が大部分をしめていた越谷市には、田植歌、麦打歌、祝儀歌、祭歌、そして童歌(わらべうた)から各種の念仏など数多くの歌が歌い継がれていたが、急速な都市化と共に忘れ去ろうとしている。
〽ヤレ 十七ヨ 今年初めて
田植えた しかも しかも
この田はヨ よくできたヨ
ア ウエテシヤレウエテシヤレ
〽ヤレ 丈がナ 丈が一丈で
穂が五尺 こいてこなして
実が五石ヨ
ア ウエテシヤレウエテシヤレ
〽ヤレ こいてナこいてこなして
実が五石 桝は 桝はいらなで
箕ではかるヨ
ア ウエテシヤレウエテシヤレ
(下間久里の田植歌より)
ウエテシヤレは「植えて下がれ」の訛(なま)ったものであるが農民の豊作を願う気持ちが即興的に表現されている代表的田植歌である。
歌とは性格を異にするが、お年寄り達によってうたわれる念仏も数多くある。新築に招かれた時の家見念仏(ユミネンブツと呼ぶ)、法事に招かれた時の法事念仏、そして通夜念仏、死払念仏、枕念仏から新盆(ミボンと呼ぶ)のお棚念仏、更に旧暦三月十日の榛名お姫念仏といろいろある。
婚礼に招待された時の祝儀歌から一部の歌詞をあげてみよう。
〽これ様へ お招ばれ申して
かくのお座敷あげられて
格式は存じませぬが
手落ちがあったらごめんなさい
今日 お祝い おめでたい
〽これ様の お嫁ご様の
お座る姿を見もうせば
髪かたち ご器量のよいこと
おふた親様はお手柄よ
今日 お祝い おめでたい
〽これ様の お玄関先に
梅の大木 植えおいて
西の枝に花を咲かせ
東の枝にウグイスとまらせ
この家繁昌と舞い遊ぶ
今日 お祝い おめでたい
〽これ様の お嫁ご様の
上に召したる お小袖は
田舎染めか 京染めか
今日お座敷照り光る
今日 お祝い おめでたい
〽これ様の お嫁ご様の
上に召したる お小袖は
裾模様に 松竹梅
五ツの数が 鶴と亀
今日 お祝い おめでたい
〽今日のお盃は
おこしもとへと納まる
きにせんの山を飾る
山に俵を積み重ね
雌蝶 雄蝶の小口を揃えて
千秋楽と納むる
〔大相模(現大成町)の祝儀歌より〕
(高崎力稿)
