埼玉東部低地帯の一角を占める越谷地方には、かつて湿生草原や水生群落が各所に分布し、特色ある植物景観を呈していた。ところが、昭和三十年代の後半にはじまる工場進出や住宅の増加によって植物環境に大きな変化が生じ、その結果、あるものは減少し、あるものは絶滅していった。しかしその反面では、外来植物の伝播がみられ、また増大する荒地には、帰化植物の急速な繁茂がめだっている。以下越谷市内の植物分布とその変化について、越谷北高校の卜沢義久校長(現退職)の御研究を参考にしながらおおまかにのべてみよう。
まず絶滅した植物には、コシガヤホシクサがあげられる。この植物は、昭和十三年に市内元荒川の砂洲上で発見された希種であるがその後、惜しいことに水位の上昇が原因したのか、全く見られなくなってしまった。そのほか、イヌノハナヒゲ、タヌキ藻、デンジグサなども最近はほとんどみかけなくなった植物である。
また、他地域で少なくなったために、存在価値の増した植物として、ムツオレグサ、サヤヌカグサ、ウキガヤなどがある。これらは現在、荒らし作りの水田やひどい湿田、休耕田ならびにその畦畔に多くみられる。また、宅地に囲まれた耕作放棄水田や地盤沈下によって排水条件が悪化した水田では、湛水期間の長期化と水深の増大に伴い、クサヨシ、コシ、コナギ、オモダカなどの生育がめだっている。同様にして休耕田にもコブナソウ、チゴザサ、ガマ、ミゾソバソウなどが繁茂している。
近年、越谷地方でも水田を埋め立てて宅地造成が盛んにおこなわれている。その際、搬入土砂の入手先から外来植物の伝播をもたらすことがある。国道四号沿線のハマエンドウ、県立越谷北高校付近のコウボウシバなどは、埋め立て用の土砂といっしょに運び込まれてきた植物の一例である。
このほか、土地利用の混乱している宅地急増地区やその近辺では帰化植物が旺盛な群落をつくっている。なかでも路傍、荒地、河川敷などのブタクサ、セイタカアワダチソウ、あるいは四号国道沿線のアレチマツヨイグサ、オオマツヨイグサ、コヌカソウ、イヌムギ、シラケガヤなどは比較的目につく、しかも新しい帰化植物である。国道の敷地内に播種されたオニウシノケグサ(牧草)もすっかり定着し繁茂している。
植物の生態系と分布に影響をおよぼすものは、森林伐採、観光者の踏み荒らしと盗採、河川敷のゴルフ場・運場場への転用、埋め立て宅地造成、排水悪化、水質汚濁と大気汚染、休閑地の増大、道路建設などである。このうち越谷地方の植物分布に影響を及ぼしたものは宅地造成、排水悪化、休閑地の増大、道路建設などであるが、最近では大気汚染の影響もぼつぼつでているようである。
(新井鎮久稿)
