七草粥(ななくさがゆ)

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 お正月の行事の一つに一月七日の七草があります。一月七日は三月三日、五月五日などと同じように五節句の一つで人日(じんじつ)の節句ともいわれ、一年間の人の運命を占(うらなう)お祝いの日とされてきました。

 この日〝せり〟〝なずな〟〝ごぎょう〟〝はこべ〟〝ほとけのざ〟〝すずな〟〝すずしろ〟の春の七草を入れた粥(かゆ)をつくって食べるならわしでした。越谷地域ではこの粥に入れる七草には、〝なずな〟や〝せり〟のほか、大根や人参、牛蒡などがかわりに用いられました。このほか〝フクゼンクズシ〟といって、荒神様に供えた餅を粥の中に入れるしきたりもありました。

 この七草を料理するときは、神棚の前にまないたを置き、その家の主人が「七草なずな唐土の鳥が日本の国に渡らぬうちにトントントン」ととなえながら七草をきざみ、これを粥の中に入れて塩で味つけをしました。この粥を食べると一年間「無病息災(むびようそくさい)」、つまり一年間病気やけがをせず無事にすごせると信じられていたのです。

 今は七草粥をつくる家も少なくなったようですが、昔は大事な年中行事の一つで、そこには大きな夢と希望がこめられていたのです。昔の暦(こよみ)ですと一月七日は今の二月の中ごろで、ながい冷たい冬がようやく終りに近づき、草も萌(も)えだす新春の季節にあたります。夢がふくらむこの季節に七草を祝うのはきわめて当然であったと思われます。

 こうした夢をともなった行事がだんだんなくなっていくときに、私たちは自然とのかかわりのもとに、時代に合わせた新しい夢を育てていきたいものですね。

さしえ・大徳美智子氏