桃と越谷

212~213/236ページ

原本の該当ページを見る

 三月から四月にかけては桃の花が美しい季節です。越谷は江戸時代から桃で有名なところで、江戸近郊の花見の名所(めいしよ)として小金井(東京都小金井市)の桜、杉田(神奈川県横浜市)の梅とともに越谷の桃をあげていた文化人もいました。

 この桃は大房(現北越谷)から大林・袋山にかけての元荒川ぞいと、増林から大吉・向畑にかけての古利根川ぞいの所でした。この地は砂土(さと)で水はけがよく、梅や桃などくだものの木に適(てき)したところでした。

 この越谷の桃は明治から大正、昭和にかけてもさかんでした。昭和三十二年四月十日の毎日新聞には、「越谷地方では、いま桃の花がまっさかり、ぱっと咲き出した桜の花と美しさをきそい、ナタネ畑の黄色い花に映(は)えて、東京からの見物客でにぎわっている。野良(のら)仕事の手を休めてむつまじくかたりあう母子の姿に、春風がそっとささやくように吹きぬけ、農村ならではの桃源郷(とうげんきよう)をえがき出している」というような記事をのせています。

 花にかこまれた平和そのものの、当時ののんびりとした越谷農村が目にうかぶようですね。それは遠い昔のことでなく、今からまだ二五年ほど前の話です。

 今は、都市化が進んで桃林も少なくなり、大林の埼玉鴨場の裏にわずかに桃林がみられるだけですが、心のやすまる自然を少しでも残しておきたいものですね。

大林の桃ばたけ(昭和30年ごろ)