はじめに

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 現今一年間における自然環境の変化は、昔の百年二百年の変化に相当するといわれる。とくに越谷は東京の外延都市として、日々刻々変化をみせているのが現状である。こうしたとき、今の越谷の現況をその事歴を交えながら記録しておくことは、後世の人びとのためにも決して無意味なことではないと信じられる。こうした意図のもとにふるさとの散歩コースを企画して編集したのが本書である。

 いうまでもなく越谷は埼玉東部の沖積地帯に位置し、水郷越谷と呼ばれているように、その西端を綾瀬川、中央を元荒川、東端を古利根川が貫流し、その他葛西用水・末田用水・須賀用水・八条用水・東京葛西用水、新方川などの用排水路が縦横に市内をつらぬいている。このうち古利根川や元荒川は、かつての利根川や荒川の主流筋であり、これら河川によって形成された自然堤防上に、主要な街道が通じ古い集落がつらなっていた。

 したがって本書では元荒川・古利根川、それに綾瀬川の流域を中心として、越谷のふるさとを探る散策コースを設定したが、上編では元荒川の流域にこれをしぼり、乗り物の都合や道程の遠近を考えて一〇のコースに分けてみた。

 内容は現況の紹介を兼ねたふるさとの紹介を主としたので、おのずから昔の面影が多少とも残されている神社・仏閣・田園集落、あるいは河川水路や街道の変遷などに集中せざるを得なかった。しかも私達先祖が残した文化遺産の多くは石塔などに刻まれた銘文にたよるほかなかったが、その意味づけもしないまま単にこれを集録するにとどめた。さらに建造物やその内部に保存されている、たとえば仏像・什器・古文書・宝物などの紹介は紙数の都合もあり、必要と思われる以外はこれを省いたが、散歩がてら立寄り専門的な立場でそれぞれ調べられるのも一興であろう。

 従来私達は、路傍の石塔などを何気なく見過ごして来たことが多いが、その一つ一つの遺物にも越谷を永い期間にわたって支えてきた先祖の喜怒哀楽が織りこまれている。いわばそこにはその時代時代に懸命に生きぬいてきた人びとの生活の歴史が秘められているのである。これらに思いをはせるとき、路傍に立てられている石塔の一つ一つが樹木のそよぎにのって親しく私達に話しかけてくるような錯覚にとらわれる。ふるさとの実感とはこのようなものであろう。

 ともかくふるさととは、ふるさととしての親しまれる自然環境と地域住民の親密な交流がなければ存立しない。越谷をこよなく愛されるふるさとに育てるのは、私共今後の大きな課題といえよう。次の稿では古利根川流域の散歩コースを予定している。

本間清利