性以強而可不合

人の至親[いたって/したしき]ハ親子兄弟ニ過るはなし

然ルに親子兄弟之間不和成者有は父子或ハ善を責

にゟ兄弟財を争ニ因る若善を責財を争ふニ

不因して不和成者有ハ世人其不和成を見て其中ニ

就て是非を分別而其由る所を明らしむ事なし

益人の性或ハ寛緩[ゆるやか/ゆつたり]成有又褊急[ゆきつまり/せハしなき]

成在或ハ剛柔[手強く/気あらし]成在或ハ柔懦[よハく/かいなき]成在

或ハ厳重或ハ軽薄或ハ持検[と□□【虫喰】まり/のよきこと]或ハ

放縦[気まま/次第なる]成在又閑静成を喜ひ又紛拏(とう)

[事おほく/せハ/\しき]を悦在或ハ其見る所の大成あり見

る所の小成在是皆人々の稟る所性質

の不同也父は必子の性の己に合(あハ)せん事を

欲す子の性未必不然兄は必弟の性の己に

合ん事を欲す弟の性いまた必不然其性たる

もの得て合せ難けれは其言行も又同し

きを得す是は則父子兄弟不和の

根源也況凡事に臨むの際一ハ以而

是となし一ハ以非となし一ハ先ニす

へしとなし一ハ後ニすへしとなし

或ハ緩々すへし或ハ急にすへしとなす

其斉しからざる事如此若直に己に

同からんと欲せは必争論ニ至り争論かた

ざる事再三乃至十数度ニ及ハ則ち不和の情

是よりして啓き或ハ終ニ身歓を失ひ不快

ニ至る若能此理を暁らハ父兄たるもの情を

子弟ニ通して子弟の己ニ同しきを不希

身ニ反り求めて己か身如何と願ふ時は

事ニ潘するの際必相□き□ひて乖き争

ひ不和ニ至るの患なし孔子曰父母ニ事るに

幾(やふやく)く諫む志の従たるを見て敬して違ハす

労して怨ミすと是ハ聖人人ニ教へて

家を和かしむるの要術也

 老子の友ニ匡章と云あり斉国の質

 人成レ共不孝の聞在り是ハ父子の間善を

 責るに因りて也善を責るハ朋友の道にて

 朋友ハ其相歓(なかのよき)ふに至てハ骨肉よりも親し

 きあれば其密契(むつましき)の所ゟして善を責へき

 の理在朋友五倫の一にして互ニ相切磋

 す易の兌澤講習とあるも善を責

 相益するの道をいへり

漢末に和気祥を致し乖気異を致す

臣有家内不和成家は吉祥善事なし諺ニ笑ふ

門ニ福来ると此事也人として吉祥善事

福禄寿富を願ハさるハなし若是を願ハゝ先第

一ニ家内和睦を願ふへき事也堯舜の荒地を

益ふの大徳も九族を雍らき睦しくなすことニ

不過なり