一 慈父ハ[いつくしみ/ふかきちゝ]ハ多子を[愛を通て子を/□□【虫喰】をいふ]又子

孝なれは父或ハ不察益人の性強にあへは

恐れ弱ニ逢へハ肆(ほしいまゝ)也父厳にして子畏るゝ所を

知れハ子あへて非を為さす父寛ニ慈深けれは子ハ却て

翫ひ侮り其行恣(ほしいまま)にして不憚子の不背父多く

優容[ゆるして/とがめす]之子の悪愨(かく)[わろき/しつほき]成父或ハ満(ゆきとゝく)るを責

て止むことなし是に由て父子の愛背き離るゝに

至る唯賢智の人は此憂なし兄ハ友なれとも

弟ハ不恭[うやま/ハぬ]弟ハ恭なれ共兄は不友[弟を愛/せぬ]

夫ハ正しけれ共婦ハ不順婦は順なれ共夫ハ不正

の類皆彼強けれは此弱く此強けれハ彼弱きに

因て漸に積て此乖戻(クハイレイ)をなす父たるもの

他人の不孝の子を以て己か子を視[たくら/ミる]へ子たるもの

能他人の不慈の父を以て己か父に□□は父慈に

して子益孝なるへし子孝にして父いよ/\

慈愛深かるへし兄弟夫婦の際と雖此法を

以相比喩せず怨る隙を生する事なかるへし