『越谷風土記』の刊行にあたって

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越谷市教育委員会教育長 中野茂

 国際化社会・情報化社会のもとで、平成十三年九月のアメリカ・ニューヨーク同時多発テロ事件が発生、引き続きアフガニスタン内タリバンの攻撃戦展開によるテレビや新聞など、マスコミによる連日の報道に関心が集まってきました。日本の一般庶民は平和のもとに、景気・不景気の変動に心をゆるがせているものの、地域社会のなかで平凡な日常生活を送っているのが実情といえます。同時に私達先祖の社会生活をかえりみて、現在との比較の上で現実をみつめたいとの思いもいたします。こうした意味から、今回越谷市平成十三年度事業の一環として、越谷の今昔をさぐった『越谷風土記』が刊行される運びとなり、喜びに絶えません。温故知新という言葉がありますが、過去を大事にしてはじめて現在を知ることができるということは当然のことといえます。

 もとより越谷は江戸時代、伝馬継立宿としての町場と、穀倉地帯と称された、水に恵まれた農村でしたが、庶民生活を軸とし、伝統的文化を育成して史的魅力に溢れています。時代の流れとともに、農村であった越谷にも都市化が進行、すでに三〇万都市に成長してきましたが、同時に私達の生活環境は大きく変化してきました。

 すなわち国際化社会、情報化社会と称されて、国内はもとより世界中の事柄が毎日のように報道され、私どもの視野は限りなく広がりました。しかし考えるまでもなく、私達の日常生活の多くは、限られた地域社会のなかで展開されています。つまりこの日常生活の場が、今では馴染みが薄くなった言葉である郷土といえます。この郷土の住民としての郷土に対する愛情や誇りは、その郷土のなりたちを知ることからはじまると信じられます。こうした意味から郷土に関心を示し、郷土の事歴や現況をさぐり、これを子孫に伝えることは、情操教育の一つと考えられます。現今、技術の飛躍的な進歩による機械文明のなかで、個人の無力さが痛感させられていますが、立ち遅れている人文科学の一つとして、郷土の研究に意欲を燃やす道は残されています。

 この度刊行の『越谷風土記』は、郷土越谷の庶民の歴史の一端を叙述したもので、現在の生活の上で参考になるものと思われます。皆様のご愛読を期待するとともに、さらに郷土への理解を深めていくことを願って止みません。

  平成十四年三月