あとがき

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越谷市立図書館館長  小野肇

 市立図書館平成十三年度文化事業の一環として『越谷風土記』を刊行する運びとなりました。この『越谷風土記』には、その創建や事歴を今に伝えている寺社を紹介した「寺社素描」と、市史編さん事業終了後、図書館に収蔵された大間野中村家などの文書史料や古書籍類の資料を収載した「旧家展望」の二編が収められています。ことに旧家展望には、郷土史研究者の便宜をはかり、各家の編年による史料や資料目録が掲載されています。いずれこれから史料が公開されるときは、利用活用されることを期待しております。

 もとより越谷は水郷越谷と称され、河川や用排水路に恵まれた土地で、穀倉地帯として重要視されてきました。また江戸時代越ヶ谷は、日光道中の宿場であり、物資の集散地として繁昌の地でした。ここでは庶民生活を軸として、伝統文化が育成され、史的魅力に溢れていた地でもありました。現今国際化社会、情報化社会と称され、広げられた視野のもとに、京都や鎌倉など、あるいは外国の名所旧跡を見学する人びとが増大しています。

 こうした傾向のもとに、越谷は価値が小さいと称し、省みようとしない風潮がありますが、その史的由緒や建築構造は別として、越谷先人の喜怒哀楽が織り成されている越谷の旧跡なども大事に見守り、子孫に伝えていく必要があるのではないでしょうか。郷土を知ることが郷土愛につながり、越谷文化興隆の基いとなると信じられるからです。

 今さら考えるまでもなく、私達の日常生活の多くは地域社会、つまり郷土に現住し、孫子を誕生して育成させています。この孫子のためにも越谷をかけがえのない郷土として愛し続けられるよう、郷土の生い立ちを知らせたいと念願いたします。こうした意味で『越谷風土記』が郷土意識のよい刺激になることを望んでいます。

 平成十四年三月