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沖積層の形成

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 紀元前一万年ごろから、地球はこの厳寒なヴュルム氷期をようやく抜け出し始めた。
寒冷な地球の気候がしだいに温暖に向かい、南北極を厚く覆っていた氷がとけ始めると、海面は徐々に上昇し、雨が降りはじめる。温暖な気候と降雨は生命の繁殖にとって良好な条件を与える。森林が生育し、地球に緑がよみがえり、人間の生活にとってよみがえった自然のなかから得る食糧は格段に豊かになった。
 今まで石を加工した比較的大型の石器を使用していた人々も、小さく打ち欠いて作った細石器と呼ばれる一群の石器や、よく知られた石鏃などの小型石器を使用するようになる(図5)。骨器や木器も飛躍的に発達する。

図5 後期の旧石器
(吉川弘文館『山口県の考古学』小野忠凞より)

 降雨により山地から河川によって運ばれた土砂が洪積層をおおい、新たな堆積層を形成する。これが沖積層で今日私たちの生活する低地平野につもっている土である。
 陸上の生態系は再び一変する。太陽の熱が地球を包むと、海水の温度も上昇し、海の中の生態系も変わった。オオツノ鹿やナウマン象などのような大型獣は、恰良火山噴火期にはほぼ絶滅したが、瀬戸内周辺では、一万年前ころまで生息していたことを示すいくつかの遺跡がのこされている。動きの比較的にぶい大型獣のような寒系の動物の減少は、いままでの食糧確保を変えることを余儀なくされた。石のヤジリ(石鏃)のような小型の石器の発明はしだいに種を増やし始めていた、動きがすばやい中・小型獣の捕獲を意図したものであった。海では魚類とともに貝の捕食が始まった。貝は加熱すれば自然に口を開けてくれる。土器の発明は、食生活の変化に対応したものであった。旧石器人は動物の肉を焼いて食べた。こぼれ落ちる脂肪を受けとめるためには、土器を用いて煮る料理法は革命的であった。縄文時代の土器の登場は、温暖化に対する適応の装備として出現したと考えられている。