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貨幣の流通

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 生産力の発展は、わずかずつでも労働力にゆとりをもたらす。そのゆとりの部分だけ農民は別の仕事に励み、農村内にさまざまな、これまでにはなかった生産活動が行われるようになる。都濃宰判では一八一四年(文化十一)、「農業の相間に縄筵、草履、わらじ、塩菰其外何ニても銘々得手方之稼」ぎをするものから、その出来高に応じて税を取り立てるよう指示している(「都濃宰判本控」)。これは当時すでに農間余業によって雑収入を得る人々が増えていることを物語るものである。『注進案』にも「諸産業売捌銀高」の項を設けて、各産物の生産高と売上高を記している。表10はそれを村ごとにまとめたものである。農民はこの時期すでに田畑の耕作だけでなく、さまざまな労働によって貨幣を手にしていたことがこの表からだけでも分かる。
表10 下松市域諸村における産業収入(ただし本藩領のみ)
末武上末武中末武下平田開作
数量代銀数量代銀数量代銀数量代銀
 
木 綿

2,870
貫目
8.610

1,800
貫目
14.400

3,000
貫目
21.081

612
貫目
4,896
 
藁 縄

1,500

1.200
 
草 鞋
 

4,500
(馬沓草鞋)

0.450
 
 
櫨 実

350

0.770

120

240
 
 

 
 

8,666
 
 
貫目
85.351
(正銀 72.220)
 

12,509.2
 
(正銀)
貫目
104.243
 
 
塩 菰

150,000
貫目
5.250
 
 
貫匁
14.700
 

 
 

 
貫匁
6.545
(笠戸嶋)
 

11,500
貫匁
1.955
 

42,713
貫目
1.941
 
繰 綿

39
貫目
1.170
 
雑木炭
 
 
木 楮

70
貫目
1.820
 
半 紙
 
梅 実
 
黒 保
 
草 履
 
苧 楮
 
駄賃銀
 
 
貫目
12.850
(80)貫目
14.640
貫匁
132.927
貫匁
114.205

切 山下 谷
数量代銀数量代銀数量代銀
 
木 綿

8,282
貫 
48.987
 
藁 縄

1,000
貫目
0.300

2,500
貫 
1.500
 
草 鞋
 

12,000
 
貫匁
0.818
 

8,000
 
貫目
0.400
 

24,500
 
貫 
1.668
 
 
櫨 実

120

0.218

470
貫 
0.988
 
 

 
 

21,175.2
 
(正銀)
貫 
176.463
 
 
塩 菰

150,000
貫目
5.250
 
 
貫匁
14.700
 

7,200
貫目
2.160
 
貫 
8.705
 

500
貫目
0.500

12,000
貫 
2.455
 

42,713
貫匁
1.941
 
繰 綿

100
貫目
0.220

39
貫目
1.170
 
雑木炭

150
貫目
0.090

100
貫目
0.220
 

750
貫匁
0.256

900
貫 
0.616
 
木 楮

70
貫目
1.820
 
半 紙

10
貫目
1.500

10
貫目
1.500
 
梅 実

50
貫目
0.200

50
貫目
0.200
 
黒 保

5

79

5

79
 
草 履

100
貫匁
0.008

100
貫匁
0.008
 
苧 楮

100
貫目
2.500

100
貫目
2.500
 
駄賃銀
 
貫匁
4.080
 
貫匁
4.080
 

1,500

0.975

1,500

0.975
 
貫匁
9.476
貫匁
5.098
『注進案』より作成。匁以下は四捨五入。切山村の黒保代銀は推定。

 しかも、ここにあがっているのは、他村に売り捌かれた物産とその銀高のみで、村内で全部消費されたものについては記されていない。たとえば末武下村の場合、この表にあがっているもの以外に櫨実一〇〇貫目、繰綿一三二貫目、大根七二〇〇貫目、薩摩荢七二〇〇貫目等が銀価格表示なしで記され、これらのなかには村内で売り捌かれたものも多かったであろう。したがって、この表の数字をかなり上回る銀を生産者が得ていたことは確かである。しかしその貨幣収入に対しても種々の名目で租税がかけられた。