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勘場の業務

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 末武上村の花岡に置かれていた勘場(代官所)は、都濃郡宰判行政の中心であった。勘場には勘場役人である大庄屋が出勤して事務をとり、それを恵米方・算用師・修補方などが事務を分担し補助していた。代官が萩より勘場に出張して来るのは通常年三回(春秋冬)であって、平素は萩において事務をとり、大庄屋からの問い合わせに回答や指示を与えていた。
 勘場における大庄屋の業務内容は、大きく分けると二つある。一つは毎年きまって実施される経常的な業務であり、いま一つは突発的に発生する臨時的な業務である。前者の事務処理については様式が定まっているが、後者は大庄屋の見識と経験が十分に発揮される場であった。
 経常的な業務に必要な費用は、その勘場に支給される郡配当米のなかから、大庄屋が代官の許可を得て支払った。しかし臨時的な業務は、大庄屋が自己の権限内で処理できることもあったが、その多くは代官の決裁を得て施行した。この大庄屋が処置したいろいろな勘場業務は、「都濃郡宰判本控」に記録されている。そこで、本節ではこの「本控」のなかから、市域内本藩領村々の動向をみていくこととする(「本控」はすべての年代が残っているのではなく、欠年も多い)。

都濃郡宰判本控


花岡勘場絵図

 花岡勘場が管轄する市域内本藩領村々は、末武上村・末武中村・末武下村・下谷村・切山村の五カ村である。末武三カ村は末武川下流東岸にある平坦部の村であり、下谷村は末武川上流の山村、切山村は切戸川上流の山村であったが、同村は村中を山陽道が横断する交通上の要地でもあった。したがって、この五村は三地区に分れ、勘場のある末武上村に中村・下村は地続きであるが、下谷村や切山村は途中に徳山藩領をはさむ飛地であった。
 一八三八年(天保九)を例にとると、花岡勘場で記録に残っている取扱い事務件数は四〇件あるが、市域内五カ村に関する事務は、つぎの二七件である。
  1 花岡勘場壁土採取願
  2 花岡火の番小屋改築費支出願
  3 笠戸浦御船倉改築費支出願
  4 笠戸浦御高札場修理費支出願
  5 切山村往還道立木伐採願
  6 花岡勘場修理費支出願
  7 笠戸島山廻船新造費支出願
  8 花岡勘場備品修理費支出願
  9 昨年管内土木事業費支出願
  10 花岡八幡宮祭礼踊開催願
  11 笠戸浦高札場修理完了届
  12 末武中村和田橋改築費支出願
  13 切山村沓ぬき山小松売払代金上納届
  14 郡奉行様回郡ニ付褒賞費願
  15 花岡勘場入用金臨時徴収願
  16 花岡勘場維持費徴収願
  17 花岡勘場役人費徴収願
  18 花岡御茶屋番給支出願
  19 郡費諸村払出願
  20 末武村百姓入牢ニ付経費徴収願
  21 管内戸籍改ニ付経費徴収願
  22 花岡勘場新規建替ニ付経費徴収願
  23 右ニ付別途資金支出願
  24 花岡勘場諸道具不足ニ付臨時徴収願
  25 別途資金ニ付難渋者貸付願
  26 三田尻水軍縄代ニ付郡費支出願
  27 当年管内諸村年貢高請書
              (「都濃郡宰判本控」三三四)
 これらの取扱い二七件の業務のうち、経常的業務に係るもの一九件、臨時的業務に係るもの八件である。この記録件数をみて、経常的業務が臨時的業務の倍以上も多いため、勘場における大庄屋の業務は、経常的業務が多かったと考えることは早計であろう。この件数はあくまで大庄屋が代官の決裁を求めた事務件数であって、大庄屋の一存で処理した事項も多かったに違いないからである。なお、この件数のなかには、大庄屋が起案したものではなく、庄屋や御恵米方が起案し提出したもの一〇件が含まれている。