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遊行上人の巡行

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 時宗は一遍宗・遊行宗とも呼ばれ、一遍智真を宗祖する浄土宗系の一宗派である。本山は現神奈川県藤沢市にある清浄寺(遊行寺)で、この時宗の教えは室町時代において民衆の間へ躍進的発展を遂げたといわれているが、その後衰微する。江戸時代になると幕府の保護が加えられ、清浄寺の長である遊行上人は全国を巡行する許可を得た。そこで遊行上人は全国を巡り、人々の求めに応じて護符を与えたが、この護符にはつぎの六種があった。すなわち大黒(金もうけ)・愛染(あいぜん)(美貌)・天神(書道上達)・弁天(芸能上達)・除病(病気平癒)・矢除(武運長久)であった。
一八五四年(安政元)六月、花岡勘場から大意つぎのような伺書が藩府へ提出された。
(一) 銀七貫八一八匁余を地方税として徴収したい。
(二) 右の銀高は、昨年遊行上人が当宰判を巡行した時の経費総計である。
(三) 今夏の徴収については、咋年許可済みとなっている。
 この伺書から、遊行上人一行の接待にはかなり高額の経費を要したことが分かる。さらに、この経費は上人巡回時に徴収したのではなく、勘場経費で一時立て替え払いをし、翌年夏の銀子での税金徴収時に、一括して徴収したのであった。これらの措置から、遊行上人の巡行が私的な巡回ではなく、公的なものであったことを知ることができる。幕府からの巡回免許をもつことは、公的な巡行とみなされることであった。したがって、そのとき与えられる護符は、絶大な神通力をもつものであったといえるであろう。