下松市では、四一年四月、「調整課」を新設して、生活必需品の切符制の導入による配給を開始するとともに、各町内会の常会を通じて、配給事情の説明を行ったり、経済政策に対する協力を求めている(「昭和十六年事務報告書」下松市役所)。その具体的な配給取扱物資と配給方法は、四一年度において、およそ表4の通りに実施されており、これもやがて県からの割当量が減少したり、切符制から通帳制に切り替えられる物品も多くなったりして、配給制度は厳しくなる一方であった。
表4 下松市の生活必需物資配給方法(1941年実施) |
種別 | 取扱制度 | 配給標準 |
食 用 米 | 通帳制 | 昭和16年6月1日ヨリ消費規制改正ニ依リ、1日消費量7歳以下182瓦、8歳ヨリ14歳マデ280瓦、15歳以上甲336瓦、乙420瓦、丙462瓦 |
食 用 麦 | 〃 | 食用米ノ1割 |
雑 穀 | 切符制 | 入荷量及入荷時期一定セザルモ、切符1枚ノ購入量ハ5合トシ、町内会ヲ通ジ消費者ニ交付ス |
食 用 油 | 〃 | 切符1枚ノ購入量ヲ約3合トシ、町内会ヲ通ジ配給ス |
干 麺 | 通帳制 | 入荷ノ都度、配給量及配給時間ヲ町内会ヲ通ジ一般ニ通知ス |
麦 粉 | 〃 | 同上 |
砂 糖 | 切符制 | 1人1ケ月70匁、毎月入荷後配給ス |
釘・針金 | 〃 | 家庭用釘ハ各町内会ニ取纏メ配給ス、一定量以上ノ所要者ハ知事宛特別配給用請書ヲ要ス、針金ハ多少ニ係ラズ知事宛配給用請書ヲ要ス |
地下足袋 | 〃 | 農林漁業工場鉱山労働者間割当ニ依リ一般分ハ町内会ニ一括配給ス、其ノ他ハ毎月市長宛配給申請書提出ヲ要ス |
学童用ズック | 〃 | 申請ニ依リ割当ヲ得タルモノヲ各国民学校ニ按分配給ス |
学童用男女服 | 〃 | 同上 |
学童用靴下 | 〃 | 同上 |
タオル・手拭 | 〃 | 県ヨリノ割当量ヲ各町内会、其ノ他へ按分配給ス |
出産用ガーゼ衛生綿 | 〃 | 妊娠5ケ月以上ノ妊婦ニ医師又ハ産婆ノ証明ニ依リ配給ス |
嬰児用ネル及服着 | 〃 | 妊娠7ケ月以上ノ妊婦ニ医師又ハ産婆ノ証明ニ依リ配給ス |
家庭用衛生綿 | 〃 | 県ヨリノ割当量ヲ各町内会ニ按分配給ス |
軍 手 | 〃 | 県ヨリノ割当量ヲ、別口ハ申請ニ依リ、農林漁業向ハ町内会ニ按分配給ス |
万年軍手 | 〃 | 県ヨリノ割当量ヲ別口ニ配給ス、一般向ハ該当ナシ |
作業衣及同生地 | 〃 | 農林漁業向、該当町内会其ノ他ニ県ノ指示ニ依リ配給ス |
甘藷・馬鈴薯 | 〃 | 入荷ノ都度一定量ヲ消費者ニ配給ス |
木炭・薪 | 通帳制 | 市ヨリ指示セル使用制限量ノ範囲ニ於テ消費者ニ随時配給ス |
[資料:「昭和16年事務報告書」下松市役所] |
とくに、太平洋戦争の開始後は、生活必需品の欠乏状況が一段と悪化したために、下松市の調整課は、四三年一月に、配給機構の「簡易化」と、「資源愛護」の「一石二鳥」を狙って、切取式の配給手帳を作成し、二月からの実施で、生活必需物資の「横流れ」や「情実販売」の防止に効果を上げることを期待していた(「関門日報」一九四三年一月十二日付)。
また、四三年八月になると、下松市は町内会長や隣保班長を動員して、食料の不正受給を狙った「幽霊人員」の摘発を断行した。さらに十一月には、市営市場への入荷が極端に減少した鮮魚や野菜について、「闇」や「行列買」「情実配給」「横流シ」などの一掃に乗り出すため、その集荷や配給機構を刷新することを目的にして「計画集荷」を実施することにした(同、八月六日・十一月二十日付)。
とくにこのとき、下松市が監督官庁へ供出価格の改正を申請して、公定価格の引き上げによる生産者の出荷を促したり、地区ごとに業者の責任区域を定めて、隣保班を通ずる直接配給の実行方針を採用したことなどは、工場労働者の急増で、食料事情が極端に悪化していたからであった。これらは、他都市に先立つ配給機構の「大刷新」として注目されたものの、市民生活の逼迫を物語る暗い話題であった(同、一九四三年十一月二十日)。